第184話 律令制度
ラジャナタンの人々の移住は、クロードが考えていたよりも早く進められることとなった。
ラジャナタンの民は、もともとクローデン王国の民ではない。東の隣国である神聖ロサリア教国の土地から逃れてきた移住民である。直接、魔境域の魔物から被害を受けたり、恐ろしい話を聞く機会が少なかったことも幸いしたかもしれない。
彼らの魔境域に対する恐怖心は薄く、むしろ最近揉めているというこの山のある土地の領主の軍がいつ来るかもわからない現状を考えると移住を急ぎたくなったようだ。
地震による家屋倒壊の影響か、あるいはもともとの貧しさゆえか、荷物と呼べる物も少なく、ラジャナタンの民は一両日で荷造りを終えると≪次元回廊≫を通り、何か所もの中継地点を経て、ミッドランド連合王国の首都アステリアに入った。
クロードは族長デランズに、元家畜人間であった人族の世話役ハンスを紹介し、彼の案内のもと、首都アステリアにおける人族の暮らしにおけるルールや彼らに割り当てる予定の空き区画についての説明をした。
クロードは自らが王になり、民としての所有を宣言した元家畜人間たちに、かつて自分がいた世界の律令制度をイメージした法の順守を科していた。
これはイメージを伝え、今は亡きオイゲンを中心とした部会に法律として草案を作らせていたものだが、ミッドランド連合王国全体に適用する前に、自らが族長という建前の人族で試してみることにしたのだ
あまり複雑な法体系を強いても理解に苦しむであろうし、とりあえず≪律≫、すなわち刑法と≪令≫その他の法律に分け、やって良いこと悪いことの分別をつけさせ、罪を犯した際の刑罰を知らしめることで、彼らの中に規律と規範が生まれることを期待したのだ。
本来、従順で自発的思考になれていない元家畜人間たちは、むしろ行動の規範ができたことに好意的な反応を示し、これにすぐ馴染んでしまった。
この家畜人間たちに守らせている異世界版律令制度ともいうべきものはハンスたちを通じて、ラジャナタンの民にも守るように教化していくつもりであった。
族長デランズは、この説明を聞きながら、揉め事などは起こさない旨約束し、この律令制についても受け入れることを了承してくれた。
その日の夜は他種族の顔役たちも招き、ラジャナタンの民を歓迎する宴が開かれた。
多様な種族が住む首都アステリアにおいては、こういった互いの種族について理解し合える機会を増やす努力が必要であり、クロードは出来得る限り、様々な種族が関われる行事や事業を行うべきだと考えていた。
互いへの理解の無さが不信を生み、猜疑に変わり、争いの元になる。
多様な種族が暮らすミッドランド連合王国にとって、それは致命的な問題となる。
元の世界では、肌の色、文化、宗教によって人々は絶えず争い、迫害や差別は絶えることがなかった。
ミッドランドに暮らす各種族の差異はこの比ではない。
衝突と和解を繰り返すことになるだろうが、彼らが何とか共に歩んでいけるように導いていく一助になればと酒を酌み交わす様々な種族の者たちを見ながら、クロードは一人思った。
ラジャナタンの民は、人族以外の種族については、ほとんど見たことがなかったようで比較的人間に近い姿をしている闇エルフ族や竜人族はともかくとして、やはり狼頭族などの種族に対しては恐れに似た感情を抱いたらしく、慣れるには少し時間がかかりそうだった。
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