第181話 女

石神しゃくじんウォロポの爆散と共に、周りの景色にも変化が現れた。


荒れ果てた岩石だらけの寂しい風景が、あたかも映像が映った液晶画面を叩き割ったかのように崩れ落ち、元の室内に戻った。


とは言っても、奥の祭壇に祀られていた黄色い石は砕け散り丸柱の多くはへし折れ、焼け焦げて、天井も屋根も無くなっていた。


どういう仕組みになっているのかわからないが、どうやらあの不思議な空間で起こった現象は元の世界にも多少の影響を与えるようだ。


爆散した石神しゃくじんウォロポの残骸と崩れ落ちた景色の断片はやがて細かい粒子となり、クロードの身体に集まり、そして吸収されて消えた。


クロードの脳裏に爆散した石神しゃくじんウォロポの記憶の断片と思われるヴィジョンが浮かび上がってきた。



ヴィジョンの中の石神しゃくじんウォロポは、整えられた白い髭と白髪の上品そうな老人の姿をしていた。


石神しゃくじんウォロポが生み出した世界は草木一本生えぬ死の荒野で、大地には無数の岩石が転がるばかりであった。

石神しゃくじんウォロポは、生命体を作るのが苦手なようで、石を人型にしては命を吹き込もうとするが、なかなか上手くいかない。苦心の末、ようやく心を持たぬ動く岩人形を作ることに成功したが、それでも信徒たり得る知恵と心を持つ≪人間≫を創り出すことは叶わなかった。

長きにわたる試行錯誤と世界創造で石神しゃくじんウォロポの神力は消耗し、疲弊していた。

そこに現れたのが同じ第二天の次元神だった。

どうやら神々の中には弱った神の作り上げた≪世界≫を奪うことで自らの力をさらに増そうとする≪魔神≫と呼ばれる悪神がおり、石神しゃくじんウォロポはその標的にされてしまったようだった。


闘い敗れた石神しゃくじんウォロポは、自らの神力の多くを使って想像した≪世界≫を奪われ、さらに最下層と呼ばれる第一天に堕とされてしまったようだ。


石神しゃくじんウォロポの悔しさや無念さがクロードの心に伝わってくる。


石神しゃくじんウォロポの焦燥と怒りが渦巻き、景色が赤みがかって歪み、ここでヴィジョンは途切れた。


「うう……、誰か」


女の消え入りそうな呻く声に我に返った。


周囲を探してみると、吹き飛んだ屋根や瓦礫の下敷きになっている女がいた。

服装からするとこの建物の前にいた顔中刺青だらけの女かと思われたが、なぜか刺青は消えていた。


クロードは下敷きになっている女に崩れ落ちないように慎重に瓦礫をどかすと、怪我がないか調べてみた。左上腕の辺りに血の跡があり、何かで抉られたようなひどい傷があった。出血がひどく、女の顔色も蒼白だった。


爆散した石神しゃくじんウォロポの石片や吹き飛んだ建物の破片で負傷したのかもしれない。


このままでは命の危険があると判断したので、人差し指と中指を≪神様態しんようたい≫の状態にし、火力を加減して傷口を焼いた。

痕は残ってしまうかもしれないが、これで出血は止まるはずだ。


女は意識が混濁しているようで、小さな声は上げたが、ぐったりとして身動きできないようだった。


クロードは女を抱きかかえると、下り坂を進み、族長の家へと急いだ。

集落内に医術の心得がある者がいれば良いが、いなければブロフォストあるいは大きめの町まで運ばなければならない。



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