第178話 石柱封殺

腰に黄色い布を巻いた老人は半ば透きとおっていたが、目を離しがたい不思議な存在感があった。


『警告はしたぞ。人の姿をしているが、儂を油断させ、儂の信徒を掠め取ろうという腹であろう。許せぬ。如何なる迷い神か知らぬが、儂の支配域に足を踏み入れし事、後悔させてやる』


老人がそう言うと辺りの景色が様相一変した。

先ほどまでの建物内ではない。周囲を囲む丸柱も壁もすべて消えて、見渡す限りただの荒れ果てた光景となった。

雑草など草木は一本たりともは得ておらず、生物の気配は無い。大小さまざまな岩石が転がっているだけだ。

先ほどまでいた山の斜面の景色ではなく、全く違う場所に来たかのようだったが小屋周りの少し広くなった地面と周辺の傾斜の形は同じような感じでだった。


老人の姿も、もはや透き通ってはおらず、まるで生身のようであった。

ただ、全身の肌は黄色く、ごつごつとした岩場のようで、先ほどとはかなり様子が変わっていた。


「儂は石神しゃくじんウォロポ。第二層すなわち第二天。この世界よりひとつ上の上位界より降りし神だ。これは神同士の神聖な戦い。名を名乗れ」


「待て。俺は神じゃない。この集落にも、彼らの迫害を逃れるための移住先を勧めに来ただけで、お前の信徒とやらを奪う意思はない」


「呆れた偽り神だ。この階層の神はこのような輩ばかりなのか。ここから少し離れたロサリア何某とかいう土地でも、人を装い儂を喰らおうとした輩がおったが。許せん。思い出したら、はらわたが煮えくり返ってきた」


「話を聞いてくれ」


「五月蠅い。その全身から漏れ出た神気をどう説明するのか。お前の受肉体は完全ではないのが自分でわからんのか。内側に納めた神気を抑えきれず、肉体までも変質しかかっているではないか。臭い、臭い。謀り、掠め取ろうとする悪神の匂いだ。成敗してくれる」


石神しゃくじんウォロポが両腕を交差させると周囲の岩石が浮かび上がり、クロード目掛けて向かってきた。

前方からだけではない。周囲全方向から、大小さまざまな岩が凄まじい勢いと速度で向かってくる。


クロードは空高く跳躍し、それらを躱した。

真下で集まってきた岩石が衝突し、大きな音をたて、砕け散る。


「その辺の漂流神と一緒にするでない。信徒を有する真なる神の力。とくと味わうが良い。石柱封殺」


石神しゃくじんウォロポが掌の上に拳を乗せると、眼下の砕けた岩石が石の細い丸柱の様に伸びてきた。


クロードは愛用の魔鉄鋼の長剣を抜き放つと魔力を纏わせ、真下に振り下ろした。

この時、妙な違和感と異変に気が付いた。

剣に纏った魔力が少し、様子が違っていたのだ。


何か混じっている。


これまで自らの魔力塊から引き出し使っていた魔力がこれまでのものでないような違和感を感じた。しっくりとこない。そんな感じだった。

まるで初めて魔力の存在を知った時のような新鮮な驚きがあった。


魔力に心像を込めるということについては問題はなかった。

むしろ具現化までにかかる時間が短縮されたような気さえする。

≪鋭利≫というより固い物体を破断するような斧や西洋の大剣のようなイメージで、魔力を具現化した。


魔鉄鋼の長剣から放たれた魔力の斬撃は真下から伸びてきた石柱を砕き、そのまま大地に深い爪跡を残した。石柱を砕くだけで十分だと思っていたので、込めた魔力量は少なかったはずだ。


クロードはその破壊力の大きさに茫然としてしまった。


その一瞬の隙を石神しゃくじんウォロポは見逃さなかった。


「詰みじゃ」


危機は脱したかに思えていたが、それ以外の周囲を囲む他の石柱群が飴の様にしなり始め、溶けあいクロードの全身を取り囲んだ。


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