第176話 普通家庭訪問
歓迎されていないのは明らかだった。
≪危険察知≫のスキルが複数の敵意を感じ取った。
まるで訪問者を拒むような、それでいて何者かを探るような視線。
山の集落への登り口であるらしい場所に近づくにつれ、その気配は増えていった。
そして、その気配とは別に何か言いようのない、これまで何度か感じたことがあるような不思議な気配を感じた。そのもう一つの気配は朧気で気のせいかもしれない程度だったが、ある種全身に働きかけてくるかのような妙な感覚があった。
オレリアンは何か細くて小さい管のようなものを懐から取り出すと唇に当て、強く息を吹きかけた。
辺りに甲高い、鳥の鳴き声にも似た響きが木霊する。
こちらに向けていた複数の気配が和らいでいき、そしてやがて三人の男が、登山道のような集落への道に姿を現した。
男たちは手に弓と矢を持っており、後ろに続く二人は今なお照準をこちらに向けている。
「僕だ。オレリアンだ。この三人の連れは敵ではない」
オレリアンの聞き取りやすく、若々しい声が周囲に響く。
男たちは、「おお、確かにオレリアンだ」と口々に言うと表情を崩し、弓の照準を解く。
「ガロイのオレリアンだ。敵じゃない。警戒を解け!」
どうやらリーダーらしい中心の男が振り向き、大声で叫び、その後、先ほどオレリアンが吹いていた小さな管上の何かが連なっている笛を吹きならした。
三人の男たちはラジャナタンの戦士で、自警団のメンバーなのだという。先ほど笛で合図していた男はレイモンといい、集落を守る自警団のリーダーだと紹介された。
オレリアン同様の民族色の強い装いで、鳥の羽や動物の骨で作ったと思われる装飾品を身に付けている。まだそれほど年齢はいってないと思われるが、無精ひげと顔に施した刺青が厳つい印象を与える。
オレリアンとレイモンは少しの間、再会を喜び合った。
オレリアンが集落に舞い戻った理由を説明すると三人のよそ者の顔を順に眺め複雑そうな顔をしたが、「まあいい。ついてこい」とぶっきらぼうに言い捨てると先頭を歩きだした。
レイモンに案内され、散在する粗末な小屋の間の道とも言えぬ道を通り抜け、そこから少し高台にある一際大きい小屋にたどり着いた。
どうやらここが族長の住まいらしい。
小屋の外でしばらく待たされ、オレリアンが面会の許可を取り付けてくるとようやく中に入ることを許された。
小屋の中に入ると、いきなりそこが族長の部屋であり、食事を煮炊きする場所であり、寝所でもあるようだった。仕切りのない広い室内に獣の敷き皮を置き、その上に胡坐をかいているのが族長だろうか。
禿げあがった頭の小柄な老人で、頭に動物の牙のようなものを連ねた飾りをつけている。
部屋の隅には女子供が控えており、何やら普通の家庭に訪問したような妙に懐かしい感じがあった。
「遠路はるばるようこそ御出でくださいましたな。私がラジャナタンの族長、デランズでございます。オレリアンから聞きましたが、ミッドランド連合王国という国の王であられるとか。見ての通り、粗末な暮らしをしているので、お通しするのもためらわれましたが、どうぞこの場にお座りくだされ」
族長デランズは自分が座っていた場所を退き、クロードに勧めてくれた。
どうやら彼らの習俗的には「上座」にあたる座り位置なのだろうか。
クロードは礼を述べ、言われるがままに座り、すぐ本題に入った。
傍らに控えていた頬に入れ墨のある女性が飲み物を出してくれて、それを飲みながらの話し合いとなった。
この女性は族長の娘であり、来客者がいるのにも関わらず木彫りの人形でマイペースに遊んでいるのは孫たちという話だった。
族長の住まいということで少し緊張していたが、家庭的雰囲気でどこか気が抜けた。
オルフィリアも子供たちが遊ぶ様子を嬉しそうに眺めていた。
肝心の移住についてであるが、先に室内に入ったオレリアンがほとんど説明していたおかげか、族長はこちらの提案についてはかなり前向きであったが、他の氏族長と神官にも諮らねばならずもう少し時間が欲しいということだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます