第170話 部長

かつて次元の狭間から脱出した時の要領で、エンテの≪視界共有≫の助けを借りて、≪次元回廊≫で山頂に出た。


火神オグンに引き込まれた場所は魔将マヌードの住処の大穴からはかなりずれた場所にあった。連峰に連なる二つ隣の山の境の地下深所、マグマの痕跡残る空洞がその場所だったが、エンテの≪視界共有≫のおかげで目標地点まで直線距離で移動できた。


エンテの話では、火神オグンを取り込んだことでクロードのニュートラルな属性がやや火属性の要素を帯び、≪視界共有≫の際の負担がかなり増えたとのことだった。どうやら森の精霊王と火属性はあまり相性が良くないらしい。

エンテはわずか数分の≪視界共有≫でかなりその力をすり減らしてしまったようだった。体内に侵入している際に、その存在に取り込まれぬように抗うのは、クロードにその気がなくとも、かなり困難であることらしい。自分よりも大いなる存在に身をゆだねることは至高の快楽であり、一度耽溺してしまうと、クロードの意思で切り離してもらわなくては火神オグンのごとく、自我を失い同化してしまうのだという。



地上に出たクロード達はさっそく、リタたちと合流し、首都アステリアに帰還した。


合流した時、リタからは、「何か雰囲気が変わった」と言われてしまったが、彼女の≪鑑定≫スキルによれば、俺のステータスに特に大きな変化はないらしい。

以前、見てもらった時に、EXスキルは見えていないようだったから、同じような感じなのかもしれない。


≪物質創造≫で創り出した服についても色々質問攻めにあったが、ありのままのことを伝えてもにわかには信じてもらえなかった。紅炎竜レーウィスは、この臙脂色えんじいろが大層気に入ったようで、自分も同じような服が欲しいとねだってきた。


森の精霊王エンテは、力を使い過ぎたのか再び精霊石の指輪に戻り、クロードの左手薬指に納まることになった。


こうして魔将マヌードの分裂体掃討作戦は結果的に成功に終わり、クロードはまたもとの王としての多忙な日々に戻っていった。



クローデン王国の王都ブロフォストとミッドランド連合王国の首都アステリアを往復し、クロード・ミーア共同商会の仕事をしながら、国王としての職務をこなす。


毎日目が回るような忙しさだったが、やりがいや自らの夢にもなりつつある首都建造計画への情熱のおかげか疲労は感じなかった。

睡眠時間も日に日に少なくなり、ついには眠らなくても疲労を感じなくなってきた。

これには周囲の者たちも心配し、睡眠をとるように言ってきたが、体質が変化したのか体調面でも何も問題がなかった。


今は何より仕事が楽しく、時間が惜しかった。


元の世界にいた時はどちらかと言えば勤勉な方ではなく、何事もほどほどにという感じだったが、自分にこんな一面があったのかと驚かされる。

ハマったゲームを徹夜で遊んだ時以上ののめり込み方で仕事に没頭してしまう。



クロード・ミーア共同商会は、起業したばかりだというのに、その取引量とレーム商会との繋がりを妬まれてか、レーム商会とあまり取引のない他の商会たちから目を付けられ始めたようだ。


商会の敷地の周りを見知らぬ者たちがうろつき様子を窺うようになり、レーム商会から荷を受け取り運ぶ際もトラブルとは言えない小さな諍いや言いがかりが目立ち始めていたが、こうした状況で手腕を発揮してくれたのが渉外担当部長のアルバンだった。



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