第162話 掃討
あまりにも唐突な提案だったので、一瞬、耳を疑ってしまった。
魔将マヌード、それも隠れ家といったのか。
「驚いた? クロードが忙しくしている間に、ブラックハウンドに探らせたの。あいつは、巨大な連峰の一角、魔境域中部にある山の頂にある大穴に潜んでいるわ」
ブラックハウンドというのはリタの使い魔らしく、魔石というものを用いて、生成することができるらしい。彼女は魔物を生成し使役したり、他の誰かが生成した魔物の情報を書き換えたりして操るスキルを持っており、以前ヅォンガが岩山の里に引き連れていたゴブリンもリタの≪
「マヌードに寄生された難民が身に着けていた持ち物とか、武器から匂いを辿わせたの。いったいどこで彼らは寄生されたのか、普通の犬の何倍も嗅覚に優れたブラックハウンドの鼻なら探り当てることができる。地面に残った奴らの匂いを逆にたどらせて、見つけ出したというわけ。えらいでしょ」
リタは、得意げな顔でクロードに顔を寄せてきた。
そのまま、クロードの膝に腰を掛け、細くしなやかな腕を首に回してきた。
リタの真っ黒で大きな瞳に思わず吸い込まれそうになり目をそらしてしまった。
「そ、それで。マヌードの姿は確認できたのか」
「私は使い魔の見た景色を共有できるんだけど、あんまり思い出したくないわね。いたわよ。おぞましい青い百足がうようよと。大穴の入り口から少し行った先までしか見てないけど少なくともその時点で四、五匹はいたと思うわ」
優しく身を離そうとするが、リタはますます体を密着させてきて、なにやらくんくん匂いを嗅いで、じゃれようとしてくる。膝に伝わるリタの体重と柔らかさが理性を奪いそうになる。
彼女の小さな唇が目の前に迫ってきた。
「「なにをしているのかしら」」
振り返ると部屋のは入口のあたりでオルフィリアとユーリアが肩をいからせ、ひどい剣幕でこっちを見ていた。
慌ててリタを膝から降ろし、両手を広げて見せた。やましいことはしてない。
「あとちょっとだったのに残念。お邪魔虫が二匹来ちゃった」
「誰がお邪魔虫よ」
「まだ日が高い時間なのに何をなさっているの」
リタ、オルフィリア、ユーリアの三人がにらみ合う。
ひとまず今のはリタのいたずらだったということで、三人には気持ちを落ち着かせてもらい、招集できる顔ぶれを会議室に集めてもらうことにした。
話し合わなければならない。別の蟲の話を。
ヅォンガを死に追いやり、他の罪のない命を操り、弄んだ魔将マヌード。
このまま放置しておけば、いつ何時、ミッドランド連合王国にその魔の手を伸ばしてくるのかわからぬままに怯え続けなければならない。
住処がつかめたのであれば一網打尽にする好機である。
クロードは討伐隊を組み、すべてのマヌード分裂体を掃討することを決めた。
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