第163話 屈辱的
「そこはおそらく我が住処であった場所であろう。もう何十年も前のことになるが、紫紺のローブを着た魔道士風の男と数十人の男女が巣穴を訪れ、我に捧げものがあると言ってやってきた。かなりの量の金銀財宝とどこかの土地の銘酒で、我は気分を良くし、彼らを歓待した。恥ずかしい話だが、我は光る美しいものに目がなく、気分を良くし、酒に混ぜられた薬のようなものにも気が付かず……、あとは察してくれ」
紅炎竜レーウィスは酷く落ち込んだ様子で俯き、吐き捨てるように言った。
「その巣穴の中はどうなっているんだ」
「大穴の入り口は、人型でなくては入れぬ大きさだが中は広く、我が竜身に戻ってもくつろげるくらいの広さがある。小部屋として使っていた空洞が三つほどあり、自慢のコレクションの収納場所に使っていた。マヌードの奴に乗り物代わりに使われるようになってからはどうなっているか、中の様子を見たことは無い。ずっと屋外で……、その……いたわけだからな」
紅炎竜レーウィスにとっては屈辱的な記憶なのだろう。どうにも歯切れが悪い。
「レーウィス、ありがとう。参考になったよ」
クロードは参集してくれた各族長の顔を眺め、誰を連れていくべきか考えた。
自分がいない間の留守を守ってもらわなければならないので、それほど多くは人員を割けない。
「とりあえず、我は行くぞ。自分の住処だ。取り戻させてくれ」
紅炎竜レーウィスは席を立ち、最初の名乗りを上げる。
その後、竜人族の族長ドゥーラが、「レーウィス殿が行くならば私も」と参加を希望した。ドゥーラにはその実力からもイシュリーン城の防備を頼みたかったが、参加したい理由がもう一つあるといい、その決意は固かった。
手練れを五人ほど選んで同行させるという。
魔将襲来の折、最もマヌード分裂体との経験を積んでいるし、奴の特性についても理解がある。対マヌードの適正としては問題ないだろう。
その後もオロフやエーレンフリート、その他の者たちもヅォンガの敵討ちだと参加を強く希望した。誰が行くかなかなか決まらず、その様子を見るにヅォンガは意外と皆に好かれていたのではないかと思う。その向上心と出世欲からか、でしゃばり、狡賢いと陰口を叩かれていた気がするが、あの人懐っこい性格はどうにも憎めないものがあった。
ドゥーラが行くとなると、オロフには城の防備を頼みたくなるし、エーレンフリートは利き腕に受けた傷が完治していない。この二人にはすまないが留守を頼もう。
「はい、はい、はーい。私も行く」
ここで意外な人物が手を上げた。
リタである。
「発案者のあたしが行かないんじゃ話にならないでしょ。本当は虫大嫌いだからすごく行きたくないけど、このメンバーだと、脳筋しかいないし、ブレーンが必要だわ。でも私、すんごい弱いから、クロード王様、しっかり守ってよね」
リタはウインクをこっちに送りながら、あざとい笑顔を向けてくる。
どこか悔しいが、かわいいのは認めざるを得ない。
オルフィリアとユーリアが歯噛みしながら、こっちを凄い顔で睨んでいる。
「とりあえず、城を手薄には出来ないのでこのメンバーで行く。ネーナは、猫尾族の伝令を出してくれ、城とマヌードの拠点間の情報伝達を頼む。後のものは城及び首都の守りを頼む。前回の襲撃でわかったが、俺の不在時は敵が付け入りやすい機でもあるようだ。気を引き締めてくれ」
クロードの言葉に、一同は表情を引き締め、静かに頷いた。
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