第160話 星形

オイゲンが遺してくれた首都建造計画図を広げてみると、彼の細部へのこだわりと熱意が今も伝わってくるようである。

イシュリーン城は美しい瀟洒な外観をしており、守るための城というより、見せるための城である。小高い丘の頂に立つこの城はひっそりとたたずむ貴婦人のようで、月明りに照らされたその姿は見る者すべてに感嘆のため息をつかせてしまう。


オイゲンはこの城を中心に星形の城郭を幾重にも重ねた幾何学的なデザインの都市設計をしており、その城郭によって区画されたそれぞれの区域には、行政区、商業区、工業区、居住区などの書き込みがなされていた。

都市の中には森や自然を愛する闇エルフ族らしく、街路樹や公園が多く配置されており、あまり人間同士が密な空間にならないように配慮がなされていた。

多様な種族が暮らす都市になるのでそれぞれの種族的特徴を考えた結果でもあるのかもしれない。

道路の位置や幅、公共建造物の予定地も全て書き込まれており、おそらくオイゲンの頭の中には完成後の姿がありありと浮かんでいたであろうことは想像に難くない。


オイゲンは戦うのには向かないイシュリーン城の構造を考慮して、首都を星形の要塞都市にすることで防衛力を高めようと考えていたようだ。

星形の城郭は、ブロフォストの城壁と比べると低く分厚い。これは弓兵に対する備えではなく、魔道士による城壁への攻撃を想定したもので、容易に破壊できないように強度が増してある。

星形要塞が備える多くの稜堡は互いを援護できるようになっており、多数の方向からの援護射撃あるいは魔道による攻撃が可能な造りになっている。

一方敵兵からすれば、城壁前の堀とさらに外側の土塁すなわち斜堤によって、死角と遮蔽物の無い状態になり、防御射撃を一方的に浴びることとなる。

他にも幾重に重なり合った星形の城郭には敵の進軍を困難にする様々な工夫が凝らされており、上空から眺めたならまるで貴婦人のドレスのように見える優雅さながら、恐ろしい防衛力を備えている。


こうした奇抜ともいえる星形城塞の特徴と意図をオイゲンは覚書として、補足文書に残しており、その中に彼が考えていた首都名の候補だとおもわれる「アステリア」という文字を見つけた。その下には「全ての種族をそれぞれ星に見立て、あたかも一つの星座であるかのように団結し、輝かんことを」と書き記されていた。


クロードは、多種族族長会議でこの首都名に関するオイゲンの考えを紹介するとともに首都名の候補としてどうか、皆に諮った。

闇エルフ族以外から反対が出ることも予想していたが、オイゲンの生前の人徳や業績の大きさによるものであろうか、満場一致で賛成された。


こうして、ミッドランド連合王国の首都名はアステリアに決まった。



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