第157話 無邪気笑顔

ヘルマンによるとミッドランド連合王国との取引をするにあたって障害となる存在が二つあるのだという。


「商業ギルドとクローデン王国です。穀物などの食料は少量であれば目を付けられることはありませんが、クロードさんが必要としている取引量では必ず介入を受けるでしょう。穀物は兵糧に使われる懸念から、原則的に隣国との大量取引は禁止されています。しかし、これはミッドランド連合王国が未だ国として他の国に認知されておらず、その存在すら知られていない現状では、問題はないはずです。ですが、商人というのは人の動き、金の動き、物の動きに常に目を光らせているものです。穀物に限らず、これだけの大商いになると、穀物に限らず、他の品目でも誰かが密告し、妨害してくることが考えられます。レーム商会としてもいらぬ嫌疑をかけられるのは避けたい」


ヘルマンは腕組みし、眉間にしわを作って、考え込んでしまった。


ヘルマンを通して、レーム商会から物資を購入するというのは我ながら名案だと思ったが、どうやら話はそう単純ではないようだ。未だ国としての体裁が整わないこの段階で、隣り合うクローデン王国と揉めるのは避けたい。商業ギルドにしても、レーム商会に迷惑をかけるわけにはいかないので、正規の手続きで購入できないのであれば何か違う方法を考えなければならない。


「人間というのは何やら色々面倒くさいのう。物を売ったり買ったりするのに、手続きだのなんだの。表向き盗賊か何かに盗まれたことにして、裏で金を払うとかすればいいのではないか」


話を聞いていた紅炎竜レーウィスが横から口を出してきた。


「いやいや、それだけの量の糧食が奪われたってことになったら軍が動き出してしまいますよ。色々と細かく調べられるでしょうし、かえってややこしいことになってしまう。やはり正式に商いの手順を踏まないと」


ヘルマンが困った顔で思わず立ち上がりそうになる。


「商会同士が大量の品物を取引することは無いのかしら。例えば、原料として小麦を買い込んで、それをパンにして売るみたいな商売を始めようと思ったら、毎日少量ずつ何度も買うより、まとまった量を一気に買った方が楽よね」


話を聞いていたオルフィリアがポツリと呟いた。


「それだ!」


ヘルマンは何かひらめいたようで椅子から飛び上がり、大声を上げた。

その場にいた全員が驚き、ヘルマンの顔を見つめる。


「あっ、大声出してすいません。思いつきました。クロードさん、あなた、商会を作りませんか。これだけの資金があるんだ。商業ギルドに正式に認められた商会同士なら、ある程度の量の取引があろうが全く問題ない。レーム商会がクロード商会に物を売って、その後買ったクロード商会が買ったものをどうしようが、転売しないのであれば届け出は不要です。作りましょう商会を。ギルドに出す推薦状は私が書きますよ。そうだ、この際、私も父から独立したことにしてヘルマン商会を立ち上げるのも悪くないな。三つの商会をうまく使えば、第三者の目をごまかしやすいし、色々と面白いことができそうですよ」


ヘルマンはその若々しい顔に、何かとんでもない悪戯を思いついた子供のように無邪気な笑顔を浮かべて捲し立てた。






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