第152話 爆発

「おい、答えろ。ルオネラはどこにいる。お前の目的とは何だ」


返事はなかった。

デミューゴスの体は完全に脱力しており、魂が抜けたかのようにその表情も弛緩していた。


落ちていく最中、膨れ上がるデミューゴスの魔力を懸命に自身の魔力で押し込めようと試みたが、もいうすでに遅かった。魔力量で上回っていても、具体的なビジョンを込められ変質した魔力が発生させるエネルギーのすべてを覆うには、クロードの魔力操作の拙さでは時間がなさ過ぎた。


地面に衝突するまでの時間もない。

できることは自分の全身を魔力で覆い、爆発の衝撃に耐えることだけだった。


落下先は空堀で、人の気配はなかった。


デミューゴスの魔力が膨張し、弾けた。

どうやら魔力に込められていたのは≪爆発≫か何かだったのだろう。

凄まじい熱と光を放ち、その威力でクロードの身体を城の外殻塔下の城壁まで吹き飛ばした。


両腕を交差し頭部はガードしたものの、爆発による威力で衣服の大部分は破れ、全身の皮膚に火傷を負ってしまった。城壁に叩きつけられた時の衝撃もすさまじく、恐らく骨の何本かは折れたようだった。

いくら魔力で全身を覆っても具体的な心像を込めれていなかったので、防御力的には不十分だったようだ。


そのまま空堀の中に落ち、ようやく一息つくことができた。


全身の痛みをこらえながら、立上り自分の体を見るともう早速、皮膚の再生が始めっていた。損傷を受けた骨や筋繊維なども修復がなされているのか、痛みがだんだんと和らぎ、やがて感じなくなった。


どうやら、スキル≪自己再生≫はその修復に魔力を消耗するらしく、手の火傷程度では気が付かない程度だったが、さすがに今回の再生にはそれなりの魔力を消費したようだ。このことが意味するのは魔力枯渇中には再生できないということで、不死身というわけではないらしい。


魔力の消耗と関係があるのか、腹の虫が鳴り、酷く空腹だった。


全身埃だらけだし、ひどい恰好だ。

今着ていた服は結構気に入っていたのだが、上半身は裸同然だし、ズボンは辛うじて原形を保っているが、あちこち穴だらけになってしまった。


クロードは空堀の底を出て、城外の鎮圧をしてくれているドゥーラたちと合流することにした。


人型に戻った裸身の紅炎竜レーウィスとドゥーラ率いる竜戦士団は、城門前に来ていた。

城の外周を回り、つぶさにマヌード分裂体の掃討を行い、待機していたようだ。

クロードは、ドゥーラに難民全員がマヌードの寄生を受けていないか確認するべく、自ら魔力探査をする旨伝えると、難民たちに列を作らせ、彼らの誘導と警備をするように指示した。


難民の数は数えきれないほど大群であったが、マヌードの脅威を考えればやらないわけにはいかなかった。難民たちも自分たちの目でマヌード分裂体が暴れているさまを見ている上に、同じ種族の同胞を失った者もいたので協力的だった。ほどなくして魔力の扱いにたけている夜魔族のヤニーナやその配下の者たちが駆け付け、手伝ってくれたので次第に捗っていった。


夜魔族は城の周りに張っていた防護結界を破られ、異変を察知したのち、城から離れた自らの集落に結界を張って籠り、事の経緯を見守っていたらしい。巨大な青い蛙の姿になったザームエルが城壁を攀じ登り、屋上に現れたことも、彼と共に現れた青年がただならぬ魔力を有していたことも知ったうえで、城には近づかなかったようだ。夜魔族の族長ヤニーナは悪びれた風もなく、敵方とクロードを天秤にかけたことを潔く告白すると、その上で深く詫びを入れ、許しを乞うた。

実際、加勢に駆けつけても事態が好転していたかはわからなかったし、まだ深く信を得ていない気がしているヤニーナにそれを強いるのは無理だと思われた。

むしろこうして、事態の収拾に助力してくれていることに感謝しなければなるまい。


列を為す難民たちの外見的特徴と魔力塊の態様による判別を行っていると城門が開き、闇エルフ族の兵士たちと共にオルフィリア、ユーリアがやってきた。


話を聞くと、場内の昏睡状態だった者たちは目を覚まし、全員意識を取り戻したということだったが、エーレンフリートは利き腕に深手を負い治療中で、オイゲン老は今もなお意識不明ということだった。



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