第151話 破
炭化した皮膚の細胞が剥がれ落ち、その下から新しい皮膚が現れる。
火傷の痕跡が見る間に癒え、すっかり元通りになってしまった。
「0歳時の記憶」と引き換えに得たスキル≪自己再生≫は、どうやら自らの意思にかかわらず常時発動しているようだ。
「素晴らしい。再生能力まで持っているのか。とんでもない化け物だよ、君は。だが、一体どこから湧いて出た? その力、ただの≪異界渡り≫ではあるまい」
デミューゴスが玉座から立ち上がり、興奮した様子で言った。
何を言っているんだろう。自分が召喚しておいてわからないとでもいうのか。
ルオの話では、この男とルオネラの信徒たちが召喚の儀式とやらで連れてきたということだったはずだが、何か様子がおかしい。
「俺を召喚して、この世界に連れてきたのはお前たちじゃないのか。召喚後、俺を見失い、儀式を失敗したと思い込んだ。冬が訪れる少し前の話だ。違うのか?」
「何の話をしている? 君の召還などに私は関わっていない。確かに儀式中のトラブルなら少し前にあったが、それはまるで関係がない。ちょっと新たな方法で供物どもの意識を操り、今までにない大規模な儀式に挑んでみたんだが……、それにより召喚されたのはお前ではないな。召喚対象をロストしたが、大規模な捜索の結果、無事発見されたよ。無残な死体の姿でな。外部介入による転移地点の強引な変更の影響と衝撃に耐えられなかったんだろう」
「嘘だ」
「嘘じゃない。私がこの失敗でどれだけ悲嘆にくれたかわかるか。この儀式に何年費やしたと思っている? おかげで私の計画は大幅に後退することを余儀なくされた」
嘘をついている様子はない。だが、今までの言動を見ると鵜呑みにもできない。
だが召喚したのがこの男ではないとすると俺をこの世界に転移させたのは誰だ。
あの日夢だと思って聞いていたあの男女の会話は一体何だったのか。
これまで得てきた情報と推理が根底から揺らぐような気がした。
「そうそう、死んでいたのは、お前と同じ黒髪の若い男だったよ。死んだのがその男ではなく、お前だったらよかったのに」
デミューゴスは突然、右手をクロードの方に向け、何かしようとした。
だが、精神になんらかの働きがあったことを感じるだけで何ともなかった。
だが、今のは敵対行動としてみなしてもかまわないだろう。
他にどんな攻撃手段を持っているかわからない。
話をするのは相手を無力化してからだ。
クロードは一気に間合いを詰め、魔鉄鋼の長剣を振り下ろす。
デミューゴスは、クロードが考えていたよりも身軽で、その刃は胴体に到達することなく、左腕の肘から下を切断するにとどまった。
切り離された左腕の先の部分は地面に落ちると木製の人形の手に変わり、乾いた音をたてた。
デミューゴスは痛みを感じている様子はなく、血も出ていない。
「くそっ、≪精神防御≫まで持っているのか。相性最悪だな。もういい、このデコイはあきらめた」
デミューゴスは歪んだ笑みを浮かべ、クロードを見た。
デミューゴスの体の内側に感じる魔力が膨張しはじめた。
魔力の態様としては、自分がザームエル戦で魔力操作を誤り、暴走した時に似ていた。魔力量的にはあの時の自分よりも小さかったが城に壊滅的な被害を与えるには十分な量に思われた。
玉座の間は建物三階の奥にあり、壁の向こうは、城外だ。
一か八かやるしかない。
床に横たわるオルフィリアたちを一瞥すると、クロードはデミューゴスの体に抱き着くと持てる力のすべてを込めて、そのまま玉座の間の石壁に向かって激突した。
凄まじい衝突音と衝撃が辺りに響き渡り、壁を突き破って空中に出た。
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