第137話 巨大蛇身顕現
ザーンドラの全身が頭部を残して全身紫色の鱗に覆われ始めた。鱗は金属のように鈍い光沢があり、遠目には鎖帷子のような鎧を全身にまとっているように見える。
ザーンドラが繰り出してくる連続攻撃をクロードは紙一重で躱していく。
やはりザームエルより速いが、避けきれないほどではなかった。
無駄な動きは体力の消耗につながるのであえて、ギリギリで躱す。その加減ができるほどの差があった。オロフから格闘術を習ったことで、技術自体はまだ習得したとは言えないものの体捌き、筋肉や骨格の効率的な使い方という分野の向上が図られていると思う。
やはり、俺は以前より強くなっている。
ザームエル戦以降、発生したと思われる≪
空振りしたザーンドラの拳が背後の木にあたり、その幹を砕く。ザーンドラはあたりの景色と地形が破壊されることも意に介さず、攻撃を続けてくる。
「ちょこまかと。これならどうだ」
少し距離を置いたザーンドラが全身を震わせ、体中を覆っていた紫色の鱗を全方向に飛ばしてきた。
クロードは魔鉄鋼の長剣を引抜き、自分の方に飛んできた鱗のほとんどを叩き落としたが、何枚か体をかすめ、小さな傷をつけられた。
地面に落ちた鱗を見ると鋭利にとがっており、わずかにではあるが濡れているように見えた。
「ははは、傷を負ったな。我が鱗には即効性の麻痺毒を含んでいる。掠めただけで即座に身動きできなくなるぞ」
ザーンドラが勝ち誇ったように笑い、鋭い爪の生えた右手の手刀で止めを刺しに来る。
「悪いが、俺に毒は効かないようなんだ」
スキル≪毒耐性≫のおかげで、体は少しも痺れていない。
クロードはその攻撃を躱し、袈裟切りを放つ。
ザーンドラは間一髪、身をよじり避けようとしたが、背に浅からぬ傷を負ってしまう。
「これは……なんという光景だ。人知を超えている」
ようやくオロフたちが追い付いてきたようだ。
オロフ配下の兵がザーンドラが作り出した破壊の爪痕と二人の闘いを見て、驚愕の声を上げた。
「鱗のようなものを飛ばす。毒物も付着しているかもしれないから、もっと離れていてくれ。巻き添えになるぞ」
後方の樹上に現れたニーナと背後のオロフに強く言い放つ。
「餌どもが……、たくさん群れてきたな。ちょうどいい。俺も本気を出させてもらうぞ」
鱗を失い、再び裸身となったザーンドラは顔の前に右手を広げた。
右手の人差し指には、指輪がはめられていて、一際大きな紫色の宝石がついていた。
紫色の宝石はぎらぎらと妖しくも強い光を放ち、ザーンドラの全身を包んでいく。
ザーンドラの体の輪郭は醜く歪んでいき、人間の原型を留めなくなって、蛇のような細長い形に変化していく。変化しながら、その胴体はどんどん膨れ上がり、蛇のものと思われる頭部の形が顕現する頃には、全身が視界の中にとらえきれぬほどの巨体になっていた。呻き声を上げ、身を捩じらせる。
ザーンドラの体は巨大化を続け、魔境域のねじくれだった木々を、押し倒し、圧迫していく。
クロードは後方に飛び退り、大きく距離をとる。
巨大な蛇の姿とは聞いていたが、これはちょっとスケールが違い過ぎる。
竜身時のレーウィスと伍するほどの巨躯。
大蛇というより怪獣だ。
近くで耳と尾に斑模様の入った猫尾族がその変貌に腰を抜かしていたので、抱きかかえ、オロフに託す。
「オロフ、見ての通りだ。全員城まで撤退だ。殿は俺がやるから、皆を安全に誘導してくれ」
「申し訳ありません。私如きでは時間稼ぎにすらならぬのを今ようやく理解しました。役に立てぬ我が身の力の無さを呪います。クロード王、御武運を」
オロフは一声吠えると、「全員撤退だ。城まで引くぞ」とニーナたち猫尾族に声をかけ、自身も撤退を始めた。
ザーンドラの呻くような声が止み、その頭部が眼前に迫ってくる。
どうやら変化は終わりのようだ。
先ほどの指輪はリタが語っていた、ルオネラから与えられたとかいう神器だろうか。
最終的な大きさは、大地を流れる川のようであり、元の世界で言えば電車や新幹線を彷彿とさせる体長だ。
同じ魔将のザームエルのような変化を想定していたのだが、まったく当てが外れた。
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