第136話 出会殺合他無

オロフやネーナたちがついて来れる限界よりも少し落とした速度で、木々の合間を縫い、進む。

しばらく行くと強烈な敵意が感じ取れるようになる。

≪危険察知≫で、敵意を感じ取れるということは、いかなる方法かわからないが、向こうもこちらに気が付いているということである。

相手も≪危険察知≫に類する何らかのスキルを有しているのかもしれない。


厳密な意味での奇襲はこの時点で早くも失敗である。


「オロフ、ネーナ。どうやら向こうはすでにこちらに気が付いているようだ。魔将の相手は同じ≪異界渡り≫の俺がするから、無理のない範囲でのサポートを頼む。オイゲン老たちには言わなかったが、万が一、俺が負けた場合は、確実にその報告を届けてくれ。それが優先第一の任務だ」


クロードの言葉に、オロフは何か言いたげだったが、二人は顔を見合わせると黙ってうなずいてくれた。もしかするとオロフの武人としての誇りを傷つけてしまったかもしれないが、相手の実力がザームエルと同等以上だと仮定すると、無駄死にさせるわけにはいかない。



移動速度を上げ、一気に敵意の主との距離を詰める。

もう気が付かれているのだから、こそこそする必要はない。

後続の者たちの生命の危険を考えると最初に接触するのは自分であった方がいい。


なぎ倒された木々の折り重なった幹の上に腰を掛けていたのは、話に聞いていた巨大な蛇ではなく、普通の人族の二倍以上はある身の丈をした全裸の女だった。

全身が逞しい筋肉で覆われているが、決して鈍重そうではなくしなやかな体つきをしている。並の男など圧倒しそうな体格だが、張り出した豊かな胸と隠そうともしていない秘部は紛れもなく女性のものだった。

黒檀のような肌と紫色の髪をしており、大型肉食獣特有の危険な雰囲気を醸し出していた。

女は半分胡坐のような姿勢で、何か生物の骨のようなものをしゃぶっていた。


「人の食休み中に来るなんて、随分と無粋な登場じゃないか」


女は口元に舌を這わせ、笑みを浮かべる。

その瞳は、蛇を思わせる縦長で値踏みするような視線をこちらに向けてくる。


「お前だろ、ザームエルとマヌードを倒したのは? こうして目の当たりにするとわかるよ。見た目は可愛らしい坊やに見えるが、底知れぬ圧力を感じるよ。俺とどっちが強いか、お前も試したくてウズウズしてるんだろう」


圧力を感じているのはこちらの方だ。

ザームエルと戦った時よりは、自分も強くなったはずだが、全力で戦う機会もなかったのでどこまでやれるかは自分でも未知数だった。

今のところ負ける気もしないが、勝てる気もしていない。


「俺はザーンドラ。お前は何者だ。これから殺し合うんだ。名前くらい教えたっていいだろう」


「俺は……、クロードだ。正直、大量虐殺をやめて大人しく帰ってくれるなら、その方がいい」


「はは、腑抜けか。それとも猫をかぶっているのか。どちらにせよ、出会ってしまったんだ。殺し合う他はないだろう」


ザーンドラは突然、座っていた木の幹を蹴りつけ、飛びかかってきた。

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