第133話 首都建造計画

地表の雪が日陰に残るのみとなっても、魔将ザンドーラは目立った動きを見せなかった。


イシュリーン城の西側には、猫尾族の斥候を放っていたが、旧ザームエル支配域の境のさらに先まで調べても、進軍の兆しはおろか些細な変化すら見つけられなかったようだ。猫尾族を束ねるネーナには、引き続き西側の動向を探ってもらい、何か異変を感じ取ったならすぐ報告を上げるように頼んだ。


魔将ザンドーラは魔境域全体で言えば西側の三分の一をその支配下におさめているが、その統治方法や戦力についてはあまり情報がなかった。

もし仮に大規模な軍勢を有しているとしても、魔境域西部からこのイシュリーン城までは一月はかかるそうだ。兵糧の問題もあるであろうし、冬の間、戦支度をしていたとしても、すぐに動くことは出来ないのではないかというのが各種族の族長の見立てであった。

中には、魔将ザンドーラ側が、ザームエルやマヌードの死をまだ情報としてつかんでいないのではないかという楽観論まで飛び出していたがオイゲン老が強く否定し、皆を引き締めていた。


どのような理由があるにせよ、敵側に動きが無い以上、こちらから仕掛ける利はなく、ひたすら待つ他はなかった。防備に多くの時間をかけれるし、地の利もあるので、戦になるのであれば迎え撃つという姿勢を保つことが今は最上の手であるように思われた。


まだ立ち上げたばかりのミッドランド連合王国においては、まだすべきことが山のようにあるし、戦にならずにこのまま時を稼げるのであれば、それはそれで国力の向上と国家としての体制の確立に力を注げるので好ましい展開である。


冬の間、議論が交わされ立案された城下の再整備計画が動き始め、それと同時に各種族への所領の配分が行われた。

ザームエルはこれまで、各種族をイシュリーン城周辺に集落を作らせ住ませていたが、連合国としての体を成すために、城周辺には首都を建造し、各種族はそれぞれ与えられた所領に集落を作ることになった。もちろん各種族の代表者あるいはその代理を任されたものは新しい首都に居を構え、それぞれの種族の統治とミッドランド連合王国における役割を兼務することになる。


与えられた所領に移住の準備ができた種族の地区から取壊し、首都建造計画図に沿った再開発が始まった。


一番早く行動を起こし始めたのが、ヅォンガたちオーク族だった。

オーク族はザームエルによって移住を強制される以前に自分たちが住んでいたイシュリーン城から北東にある土地を与えられることが決まるとすぐに移動の準備を始めた。戦が始まれば、女性や子供などの非戦闘員は犠牲になる可能性が高く、種としての生存を第一の価値観とするオーク族らしい行動と言えた。

全種族の中でもっとも人口が多いオーク族であるが、戦士や人夫の役割を担える者は城下に残し、残りは護衛の兵士と共に彼らのかつての故郷の地へと帰っていくことになった。



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