第129話 見目相応笑顔
元の世界には戻れない。
これは、リタが言っていた推測と一致していた。
黄金律とかいうもので禁忌とされているのならば、召喚者であるルオネラに直談判しても聞き入れてもらえるはずもなさそうだった。
神々すら消滅させてしまう力を持つ、さらに上位の存在。
この世界や自分がいた世界を作った神という存在を管理する者たちが定めた黄金律。
話のスケールが巨大になりすぎて、正直ついていけない。
「一ついいかな。君は自分のことを神ではないと言っていたけど、その割には神々やその他の事情に詳しすぎる。君はどこでその知識を得たんだ」
「私は断言できないと言ったわ。私が語っていることは真実とは限らない。ただ見聞きしたことをあなたに話しているだけ。私が外の世界で起こっていることを知るには、
なるほど、話のつじつまは合う。だが、いまいち信じきれないのは、彼女自身の素性がわからないことに起因するのか、元の世界に戻るのが困難だという現実を受け入れたくないからか。
クロードが次の質問を口にしようとした時のことである。
ルオと自分が存在する以外は、どこまでも続く白い地平と清らかな光明が差し込むばかりのこの世界に異変が起きた。
巨大な二つの目玉とそれを縁取るような奇妙な仮面がはるか上の方向に姿を現した。
目玉はきょろきょろとあたりを見回し、落ち着かない様子であった。
「大丈夫。三界の内、この色界は広大で、あいつの目には私たちは塵芥のようにしか見えていないし、私たちの声は届かないはずよ。でも、念のため、目隠しを施すわ」
ルオがそう言うと、白く平坦な地平のあちこちが盛り上がり、あたかも都会のビル群のように、様々な高さの巨大な直方体が出現した。その無数の直方体はどれも異なる様々な色合いをしており、景色は瞬く間に色鮮やかになった。
『死にぞこないの、片割れが。いつまでそうして隠れている気だ。早く出てきて、私に喰われるがいい』
若い男と思しき声が、頭上から響いてくる。
二つの瞳を備えた巨大な仮面のようなものは、やがて漆黒の飴状の触手を何本も伸ばし、赤、青、緑、その他さまざまな色をした直方体の物体を次々に破壊し始めた。
『出てこい。何千年でも、何万年でもこうして探し続けてやるぞ。いい加減楽になれ』
「クロード、もっとお話ししていたかったけどこれまでのようね。このまま隠れていてもきっと見つかることは無いと思うし、見つかっても逃れる術はあるけど、あいつにあなたの存在を知られたくないわ」
「あの目玉の化け物は何者なんだ」
「デミューゴスと、かつては名乗っていたわ。でも会う相手ごとに様々な名前を名乗っているからどれが本名なのかわからないし、その素顔は仮面で覆われていて知ることができない。ああして、私の気配を察知しては現れ、わたしを取り込もうとしてくる。この三界内では何者もその力のほとんどを発揮することは出来ないけど、あいつはルオネラなんかより、よっぽど恐ろしい存在よ」
ルオの声は、わずかにではあるが怯えと焦りのようなもので震えていた。
気丈にふるまってはいるが表情もどこか強張っている。
「さあ、そろそろお別れね。出口まで飛ばしてあげるから安心して。あなたの仲間も
ルオがそういって手を向けるとクロードの全身が白い光の膜で覆われ始めた。
「クロード、エネルギーを使い切っていない他の
「わかった。色々聞けて良かった。また会いに来るよ」
「約束よ。必ずまた会いに来て」
ルオは最後に、ようやく見た目相応と思われる無邪気な笑みを見せてくれた。
冠の花のように清廉で愛らしい笑顔だった。
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