第125話 種族的総合力

ヅォンガの指揮能力によるものか、オーク族特有の「超個体」的とも言える種族特性によるものかはわからないが、拠点の設営から、遺跡からの硬貨等の運び出しまで、その連携の取れた作業は無駄がなく、見事という他はなかった。群れのリーダーであるヅォンガの指示がまるで自らの考えであるかのように疑念や不満を抱かず動いている。

棚を壊す者、袋に硬貨を詰める者、台車で運ぶ者など、まるで蜂の巣の中の、働き蜂たちのように役割分担がなされ、機械的にこなしていく。

他の種族のように個々の能力では特に秀でた部分はないのかもしれないが、旺盛な繁殖力と組織力からなる種族としての総合力は侮れないものがあると思った。



クロード達探索組は、昼食としばしの休憩をとった後、オーク族の人夫たちが搬出の準備を終えるまでの間、渓谷入口近辺から中ほどまでの調査をすることにした。

まずは渓谷の全体像をつかみたかったが渓谷の全長はかなり長くて、奥まで行って帰って来るだけでも半日以上かかりそうだった。オーク族が作ってくれている拠点を中心に調査して、今回は日が沈むまでには帰還した方がよさそうだ。


オルフィリアには、渓谷の岩壁の様々な場所にある横穴や地層に埋まった建造物の入口の位置を正確に記録してもらい、残りのメンバーは発見した横穴や入口の探索に注力することにした。



クロードたちは全員がお互いの位置がわかる程度に広がり、岩壁を調べながら歩いていた。


それにしても、この岩壁は常識では考えられないほどに奇妙だ。

建造物が土圧などにつぶされることなく、地層の中にそのまま姿を留めている。

例のコンクリートのような物質の強度によるものか、あるいは創世神たるルオネラの神通力のなせる業なのか、まるで建造物のである。

それだけではない。よく見ると、何か乗り物のようなものまで埋まっているし、考えたくはないが人の形をした暗灰色の石のようなものまで見かけてしまった。


まるで町一つを固めて作ったケーキの切り出した断面のような渓谷の岩壁が、だんだんと不気味でおぞましいもののように見え始めていた。



「クロード様第一の臣、このヅォンガが、変わった入り口を発見しましたぞ」


もうそろそろ引きあげようかと思っていた矢先、ヅォンガらしい自己主張の強い呼びかけが聞こえたので、あきれ顔で一同が集まる。


その入り口は腰ぐらいの高さまで浮き上がっていて、小さな部屋の断面ぐらいの間口があった。その形から推測するに扉部分ではなく風除室や玄関ホールあるいは巨大な通路だった部分の切断面に見える。

少し先には、取っ手がなく開け方のわからない金属扉があった。

鍵穴がないのでおそらくカードキーや指紋認証のような別のロックがかかっているのかもしれない。


オロフが押したり、蹴ったりしてみたが、びくともしないようだった。

その打撃音も低く鈍い。どうやら、相当分厚い扉のようだ。


ヅォンガも自分が発見した手前、あきらめきれないようで、腰の長剣で何度も切りつけたが、ついには腕の痺れに負けてあきらめてしまった。


それにしてもこの遺跡の文明レベルが元の世界と同程度だと仮定すると、この手の扉の先にあるのは何らかの重要施設かもしれない。


それに、なんというか。言葉ではうまく言えないが、何か不思議な予感がある。

それが自分にとって善なるものか悪しきものかわからないが、扉の向こうにある何かが自分を呼んでいるかのような、虫の知らせというには弱すぎる確信の無いものを感じていた。

自分はあまりそういう迷信めいたものは信じていないが、扉の先がどうにも気になるのである。


「皆、離れていてくれ」


クロードの言葉にただならぬ様子を感じ取ったのか、皆が扉から遠ざかる。


クロードは、≪魔鉄鋼の長剣≫を抜くと、魔力塊に意識を向け、剣全体を魔力で覆った。

あの次元の狭間で、≪虚無の鎖≫を断ち切った時のことを思い出しながら、剣を包む魔力に≪切断の心像≫を投影する。初めて、魔力を具現化できた時の成功体験があったからか、前回よりもスムーズに脳と魔力塊が直結できた。


≪魔鉄鋼の長剣≫を包む魔力が、その性質を変化させ始める。

無色の魔力に、金属などの硬いものを両断できるという確たる≪切断≫のイメージが宿る。


クロードが≪魔鉄鋼の長剣≫を袈裟に振るうと、扉は壁の一部と共に甲高い音と火花を上げて、切断され、上半分が倒れ落ちた。






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