第124話 大量棒状硬貨

通路を少し進むと、分厚い壁に覆われた部屋があった。

円形の金属の扉が開いたままになっており、その手前には表面が焼け焦げた金属の塊があった。

金属塊は、大人がうずくまったくらいの大きさで、少し溶融しており、錆びも進んで原型を留めておらず、元の形がどのようなものであったのか判別することは出来なかった。


金属塊を尻目に円形の入り口に足を踏み入れると部屋の広さは十メートル四方ほどで、壁や天井には金属板が貼られており、ドラマや映画で見たことがある金庫室そのものであった。

室内の壁には金属製の棚が備え付けられており、部屋の中央にも棚が置かれていた。そのうちのいくつかは倒れ、床にはオイゲン老が持っていたような硬貨が散らばっている。棚には様々な大きさの引き出しがついていて、そのすべてに鍵穴のようなものがついていた。


クロードは試しに棚の一つを≪魔鉄鋼の長剣≫で破壊してみた。

棚の材質は、おそらくスチールかそれに類する合金で、強度も板の厚さもそれほどではなかった。

棚の中には、透明なフィルムに包まれて棒状になった硬貨がたくさん入っていた。

もしこの部屋にある棚のすべてにこうした硬貨が詰まっているのだとすると、かなりの量だ。流通させるには足りないが、国の財政的にはだいぶ潤う。


それにしても、この包装用のフィルムやコンクリートのような材質を見ると、この世界の文明にはあまりにも不似合いで、違和感しかなかった。

文明レベルで言えば、元の世界に近い。

ただ、通路の素材であるコンクリートのような物質一つとっても、骨材の関係なのか、何か添加されているのか、不自然なほど魔力を含有しており、強度も普通のコンクリートと比べてかなり高そうだった。


この世界の魔道と科学が融合したような文明。

バル・タザルの話の中で、ルオネラは自らが作った世界を何度も廃棄し、作り直したというようなことを言っていたが、この金庫室のような部屋もそうした廃棄された文明の中の一つであるかもしれない。


「それにしても、不思議ね。この棚にしても、部屋の内装にしても、見たことないものばかり。いったい誰が、どのようにして作ったのかしら。そして、この部屋が硬貨の保管庫であるならば、この部屋の主はどこかの王様で、城か何かの一室……」


オルフィリアは好奇心と想像力が掻き立てられているらしく、目を輝かせながらあちこち物色している。こういう部分は、冒険者をやっている父親譲りなのかもしれない。

他の面々も、見たことのない物体と部屋の様子に驚き、戸惑っている様子だった。

紅炎竜レーウィスはキラキラしたものに目がないらしく、床に散らばっている硬貨を拾い集めては掌に載せて恍惚の表情を浮かべている。



「クロード様、目当ての硬貨も見つかったことですし、この箱みたいなものを壊して、さっさと中身を運び出してもよろしいですか」


ヅォンガは硬貨にも部屋の異様な様子にも関心が無いようで、人夫を呼び、はやく自分の仕事に取り掛かりたいようだった。


「壊すですって。こんな貴重なものを」


オルフィリアが珍しく大きな声を上げた。


「貴重だと? こんなものはただの頑丈な箱だ。壊さなければ重くて、中のものを全部運びだすのは不可能だ。それともお嬢さんが箱ごと担いで運び出すのか? 」


ヅォンガも負けずに鼻息を荒くする。


たしかにヅォンガの意見の方が現実的だった。

この文明についても興味がないことは無いが、今回の目的は貨幣の大量入手だ。

おそらく岩壁にあった通路もどこかに通じているのだろうし、他の遺跡の入り口もあるかもしれないので、調査は他の場所でやることにしよう。


とりあえず、中でも軽そうで、保存状態の良い棚を見繕って、一つは破壊せずに運び出して資料にし、残りは壊して中身を運んでもらうことで二人の折り合いをつけてもらった。

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