第123話 迷想一刀両断

オロフによれば、襲撃してきたこの全身毛だらけの猿のような生き物は、ゴンヌットというらしい。群れで生息し、知能は高く、弓や石器で作った狩猟道具を使うが、言語を持たず、意思の疎通は出来ない。獰猛な上に、肉食で、狼頭族の子供も襲われて捕食されることがあったのだという。

かつては魔境域でもよく見かけたのだが、様々な種族との縄張り争いに敗れたのか、近年はほとんど見かけなくなっていたのだという。


道具を使っていたことから、知能があると判断し、話し合いの余地があると思ったので、殺さず、気絶させるにとどめておいたが、扱いに困ってしまった。


「クロード様はお優しいので、生かしておかれたようですが、恩義を感じるような連中ではありません。止めを刺しておくことをお勧めいたします」


エーレンフリートの進言に、オロフたちも頷く。


こういう部分が元の世界との価値観の差なのだが、意識のない相手にとどめを刺すのはどうにも気が咎める。先ほどまでは獰猛な顔をしていたが、こうして気絶しているのを見るとなかなかかわいい顔をしている気もしないではない。


どうすべきか迷っていると、突然、レーウィスが大剣を振り上げ、並べて置いていた三匹のゴンヌットの体を両断してしまった。


「寒い! じっとしてないで早く先に進もう」


どうやら、黙って立っているのが寒くてつらかったようだ。


「クロード様、それに各々方、しばし、耳をふさいでいてくれ」


言う通りに全員が耳を塞いだのを確認すると、オロフは天を仰ぎ、はるか遠くまで聞こえるように一吠えした。


「不要な戦いを避けるためだ。ゴンヌットは俺たちの遠吠えを聞くと近寄ってこなくなる。先を急ごう」



ゴンヌットたちが潜んでいた岩壁の穴は広い通路のようになっていた。

通路は、かなり先まで続いているようだったが、とりあえずはオイゲン老から聞いた硬貨の発見場所を目指すため、岩壁を降り、渓谷の先へと進むことにした。


オイゲン老の話では、渓谷の入り口をまっすぐ歩いていくと四角い横穴があり、そこから入った先に莫大な量の硬貨があったとの話だった。


「クロード様、このヅォンガめが、目的の入り口を見つけました」


誰も頼んでいないのに、皆に先駆けて進んでいたヅォンガが、手を振り大声を上げた。


苦笑いを浮かべながら、ヅォンガのところまで進むと確かに、先ほどの岩壁の穴のような四角い通路の入り口があった。


しかし、その通路の入り口は少し傾いていて、通路の材質はやはり元の世界にあったコンクリートのような物質で、よく見ると断面には鉄筋らしきものまでみえる。


ここで部隊を二つに分けオーク族の人夫は野営の支度をし、ここに拠点を作ることにした。ヅォンガも残ってここで指揮すると思われたが、兵士五人に指揮と防備を委ねると自らはクロードと共に探索組に加わるという。

オイゲン老が語っていた通り、多種族に対する対抗心からくるものだろうか。

オロフの言った通り、いつか空回りにならなければいいが。



クロードは土圧で通路が崩れる可能性も頭をよぎったが、意を決して通路に踏み入ることにした。どれほど昔の構造物かわからないが、現状崩落していないので大丈夫だと思いたい。もし、大きな亀裂や損傷を見つけた時は迷わず引き返そう。


ルッカよ。夜明けの輝きよ。辺りを照らせ。』


オルフィリアの目の前に、白色光を放つ球状のものが現れ、漂いながら、通路の少し先のところまで照らしてくれた。安物の懐中電灯などよりよっぽど明るかった。


ヅォンガは素早く松明に火をつけようとしていたが、明るくなったことに気が付き、舌打ちをした。








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