第119話 未開地消滅
古代エルフ族のエルヴィーラ。
オルフィリアの父親オディロンの師とも呼べる人物で、テーオドーアたち魔境域のエルフ族の祖先に多くの預言を残したとされる伝説上の人物である。
アルバンの話では、魔境域のどこかに庵を結び、住んでいるという話であったが、オイゲン老や他の種族の族長などこの地で長く暮らす者たちに尋ねてもその所在はおろか手がかりさえ得ることは出来なかった。
人を避けているのか、あるいは何者かに命を狙われるなどのただならぬ事情を抱え込んで隠れているのか。
いずれにせよ、この広く東西に広がる魔境域一帯を当てもなく探し回るなど危険極まりないし、現実的ではないように思われた。
何より自分は、この魔境域と呼ばれる深き森でおおわれたこの土地についてほとんど何も知らない。
魔境域全体を国土として考えるのであれば、当然把握しておくべき情報が得られていない。地形や植生など地理的情報もそうだが、自分たちがかってに領土にしようと考えているだけで、その土地に住む種族や集落の存在もまた確かめなければならなかった。
これらの問題を解決する方法として、クロードにはあるアイデアがあったが、漠然とした思い付きと言われてもしょうがないレベルだったので、実現可能性があるかどうか、オイゲン老やユーリアたちの意見を聞いてみることにした。
「何やらお話があるということでしたが、どのようなことでしょうか」
オイゲン老、エーレンフリート、ユーリア、リタ、オルフィリアを自室に招き、給仕のリーンが入れてくれた薬草茶を飲みながら話を聞いてもらうことにした。
「冒険者ギルドを作る……ですか。その冒険者というのがよくわからないのですが、とにかくその職業の組合のようなものを作るということでよろしいのでしょうか」
魔境域に住むオイゲン老たちには、冒険者という概念が無いようだったので、オルフィリアの助けを借りて、彼らに説明した。
正直言って自分もゲームやアニメで知った程度の知識しかなかったが、オルフィリアの補足説明を聞くと、おおむね間違ってはいないようだった。
それぞれの種族を動員して、魔境域全体の調査をすることも考えたが、国として産声を上げたばかりの今の状況では、労役に見合う対価を支払うだけの予算がない。
正直なところ、この国の国庫ともいうべき財産は、ザームエルが各種族から徴収して蓄えていた食料などの物資や資材などしかなく、これから国として事業をしていくためには、各種族の有志に頼るしかないのが現状だった。
しかも魔物や危険生物も存在する魔境域内を調査するにはそれなりの技量も必要であるし、無駄に調査員の人数だけ増やしても被害が出るのは、前に出会ったエトガー達、クローデン王国の魔物討伐隊を思い出せば、容易に想像できた。
だから竜人族や狼頭族など武芸や狩猟に優れた適正を持つ種族やこれから進めようと思っていた農業、工業、商業の振興にあまりなじまない種族にとってもいい生業になると思ったのだ。
「つまり、報酬を払って様々な問題を解決する腕自慢の人たちを雇うということよね。でもその報酬は何で払うのかしら。物々交換というわけにはいかないわよね」
リタの指摘は当然だ。
自分でも冒険者をやってみたからわかるが、危険に見合う報酬が無ければ、依頼を受けてくれる物好きなど存在しない。
「クロード様、人族の文化圏とは異なり、私たちは貨幣や貴金属のようなものにあまり、価値を見出してはおりません。そういったものに報酬として価値を見出すのはドワーフ族やホビット族ぐらいなものでしょうか」
エーレンフリートは、その細く凛々しい眉をひそめながら、腕組みしている。
通貨や貨幣というものは、商取引をする上では便利だが、今の国内の経済規模と商業の発展具合では、やはりまだ必要が無いのだろうか。貨幣を鋳造するにも予算がかかるであろうし、それらが流通し、仕組みが機能するためには、その価値を保障する権力的な根拠が必要だ。残念ながら、今、この国にそのような力はない。
クローデン王国などの人族の文化圏で流通している貨幣でさえ、金、銀、銅といった、金属自体の価値と物を交換する、物々交換の延長、いわば物品貨幣である。
その金属に価値を見出さない種族にとっては何の価値もないものだ。
冒険者ギルドを作ったとして、報酬はそれぞれの種族が欲しがりそうな物をどこからか調達して物々交換するのでは運営が難しそうだ。
冒険者ギルドを作り、国家ではなく民間の力を使えば、未開拓地、すなわちフロンティアの消滅を行うにあたって予算の削減になるかもしれないと思ったのだが、やはり、政治などまるで分らない人間の浅はかな考えだったのかもしれない。
未開地が少なくなれば、オルフィリアが探している古代エルフ族のエルヴィーラの住処も発見できるかもしれないし、一石二鳥だと思ったのだが。
その後も様々な意見が出されたが、議論はまとまらず冒険者ギルドを作ることに対する反応はいまいちだった。
「いや、存外悪くない考えかもしれません」
しばらく議論を聞きながら、沈黙していたオイゲン老が突然、口を開いた。
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