第113話 近況報告会
オルフィリアは今にも零れ落ちそうなほど涙を浮かべたまま、胸に飛び込んできた。
「クロード。よかった。本当に死んでしまったかと思った」
華奢な体が震えていた。
彼女のマントにはクロードが贈った銀細工の衣類留めがつけられていて、その中央にあしらわれた青い宝石が密やかな輝きをたたえていた。
わずか半月ほどのことなのに、オルフィリアから漂ってくる若木のような爽やかな香りがとても懐かしく感じた。
たしか好んで使っていた香油だったと思う。
彼女の傍らにいる時、風に乗って微かに香っていたのを思い出した。
「オルフィリアこそ、無事でよかった。今、アデーレさんからバル・タザルとエルマーの無事も聞いたところだったよ」
クロードがオルフィリアをもう一度強く抱きしめると、彼女もそれにこたえるように抱きしめる力を強くした。
周囲の目は気になったが、オルフィリアがなかなか離れようとしない。
「クロードさん、御無事で何よりです。自分のことわかります? エルマーです。忘れてませんよね」
何とも呑気な声が聞こえて、見ると確かにエルマーだった。
気のせいかもしれないが、顔が少し大人びて、背も少しだけ高くなった気がする。
オルフィリアはさすがに恥ずかしかったのか、一旦クロードの
三人は、冒険者ギルド内の酒場でテーブルを囲み、再会とお互いの無事を祝うことにした。
最初に一文無しであることを告白すると、オルフィリアは笑って、「あなたの荷物は私が預かっているし、ガルツヴァの報酬もあるから心配しないで」と教えてくれた。
どうやら、ガルツヴァから引きあげてくるときに、俺の背負い袋をちゃんと回収してくれたようだ。発見したのはバル・タザルで「弟子の遺品」だと、目に涙を浮かべていたらしい。
久しぶりに目の当たりにするブロフォスト料理は見た目からして食欲をそそった。
香ばしく焼き上げた多様な腸詰め料理に、スパイシーな調味料で味付けされたサラダ、煮込み料理。
それに何といっても、葡萄酒などの酒類が豊富で美味しい。
魔境域で出された料理も味は悪くなかったが、素材がはっきりわかるほどに原形を残したものが多かったので、慣れるまでは口に入れるまでに多大な勇気を要したことを思い出し、苦笑いが自然とこぼれた。
再会を祝して杯を交し、料理を食べながら、廃村ガルツヴァの夜以降の足取りについて聞いてみた。バル・タザルの姿が見えないことも気になる。
「あの後、大変だったんですよ。クロードさんがいなくなっちゃったから、僕一人で荷車押して帰ったんですよ。腕もケガしてたから大変だったのに、導師ったら、杖で僕の頭何回も叩いて」
エルマーの身振り手振りがおかしくて、つい笑ってしまう。
エルマーの右腕には傷跡が残ってしまっていたが、もうすっかり痛みは無いようだった。
「その導師の姿が見えないけど、どうかしたのか」
「ギルドで依頼達成の報告をして数日後にはもう姿が見えなくなりました。酒場にも来てないし、ギルドの受付にも顔出していないみたいっすね。なんだかとても急いでる様子で、クロードさんの死亡届とか墓の用意とか早く済ませて、どこかに出かけたいようでした。墓については、オルフィリアさんが反対したのであきらめたようでしたが」
「オルフィリアは何か知らないか? 」
「そうね。たしかに何か急いでいるような印象はあった気がするけど。クロードのお墓については、こういうことをおろそかにすると化けて出てくるんじゃとか言って、クロードの分け前分を使って、共同墓地に墓碑作ろうとしてたわ」
思わず葡萄酒吹き出しそうになる。
誰も行方を知らないようだが、元気そうなので良しとするか。
あの導師のことだ、そのうちひょっこりと顔を出してくれるに違いない。
戻ってからのオルフィリアとエルマーは遠出せず、近場の依頼をこなしながら、クロードの帰還を待ってくれていたらしい。
一通り彼らの近況を聞いた後、今度はガルツヴァで魔力暴走を引き起こしてから今日までの足取りと自分の置かれている状況を説明したが、二人の反応は何とも微妙なものだった。
「あなたが嘘を言っているとは思わないけど、話が凄すぎて理解が付いていかないわ。わずか半月で、魔境の森の奥地に国を作って、そこの王様になったとかまるで子供に聞かせるおとぎ話や神話みたいで……」
「クロードさん、頭とか打って記憶がおかしくなっているとかではないっすよね。何て言ったらいいか、とにかく他所ではこういう話しない方がいいっすよ」
二人の反応を見るとにわかには信じられないようだった。
無理もない。
冷静に考えてみると、俺だって似たような話をされたら同じようなリアクションをとってしまう気がする。
とりあえず変な空気になりそうだったので、話を変えて今日は楽しく飲むことにした。
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