第112話 冒険者組合
夜陰に乗じて城壁を攀じ登り、≪危険察知≫で広く気配を探りながら、民家の屋根に飛び降り、人気のないあたりに降りた。
眠っていた野良犬を驚かせてしまったが、他に気付いた者はいないようだった。
冬に入り、日の入りが早くなったせいか、辺りの暗さのわりに、王都ブロフォストはたくさんの人で賑わっていた。
時刻的には夕飯前ぐらいの感じだと思うが、宿屋や酒場、飯屋などの客引きの声があちこちで聞こえ、どの店にするか物色して歩く、人の流れができていた。
この区画にはレーム商会があり、ヘルマンを頼ろうかとも思ったが、彼とは一度仕事をしただけだし、そもそも雇用主と護衛の関係だ。忘れられていても不思議はないし、その程度の縁で頼るというのは、図々しいにもほどがある。
オルフィリアたちの近況がわからない以上、隣の行政区にある冒険者ギルドで情報を集めるしかない。
冒険者ギルドを訪れると夕方という時間帯もあってか、混みあっていた。
一仕事終えた冒険者たちが依頼の報告や収得アイテムの鑑定などに訪れていて、受付は列ができていたし、建物内の酒場は席が少しずつ埋まり始めた。
受付前の人の列を見ても、酒場の客を見ても、オルフィリアたちを見つけることはできなかった。
まさか廃村ガルツヴァから無事に戻れていないのではないかと少し不安になった。
自分のことを知っていそうな人間がいないか物色していると、ようやく一人見つけることができた。
冒険者ギルドの受付職員、たしか名前はアデーレだったと思う。
バル・タザルと親しそうに話していた。
アデーレの前には三人ほど並んでいたが、後に続いて待っているとすぐに自分の番がきた。
「登録証の提示を……、あら、あなた。ひょっとして……、クロードさん!」
よかった。自分を覚えてくれていた人がとりあえず見つけられた。
アデーレは、トルコ石のような水色の瞳を大きく見開き、顔を指さして叫んだ。
周囲の人たちも何事かと一瞬、こちらを見る。
「ごめんなさい。導師からお亡くなりになったと伺っていて。仲間の方が保留の意思を示していたので、登録抹消になってはいませんが、たしか仮の死亡手続きが……、ああ良かった。まだ保留扱いになってましたので、生存確認ということで処理しておきますね」
良かった。バル・タザルはとりあえず無事に戻って来ていたようだ。
「オルフィリアという名前のエルフ女性がメンバーにいたんですが、彼女は無事だったでしょうか。何とか、連絡を取りたいのですが」
「エルフは珍しいので、覚えていますよ。オルフィリアさんも、エルマーさんも、導師のお仲間は、クロードさん以外は全員無事でしたよ。依頼達成の時の手続きも私がしたんです。導師が死亡届を出そうとするのを彼女は必死で止めていましたよ。それにほとんど毎日、あなたが戻って来てないか確認に来て……」
アデーレの言葉が急に止まった。彼女は手で「少し待って」とジェスチャーすると背伸びして、背後の出入口の方向を覗き込み始めた。
つられて、背後を振り返り見てみると、出口前の人混みの中に見間違えようのない人影があった。
陰りの無い白銀の長髪に、白皙のまだ微かにあどけなさが残る美しく整った顔立ち、そしてエルフ族の特徴である長い耳。
彼女もクロードに気が付いたらしく、口元に手をやり、何か言い出しそうな表情で、一歩、二歩と近づいて来る。
オルフィリアだった。
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