第111話 精霊王保護
≪次元回廊≫といっても歩いて通路のようなところを歩くわけではなかった。
足を踏み入れたと思ったら、もうそこは出口で、王都ブロフォストは目と鼻の先だった。
まさしく、入口と出口、二つの地点を重ね合わせるという表現がぴったりだった。
雪が薄ら地表を白く覆って景色が様変わりはしていたが、あの堅牢な城壁と高台に築かれた城塞の雄々しさは見間違うはずがない。
イシュリーン城にいた時は、夕食までまだかなり時間があると思っていたが、太陽がその身の半ばを地表の影に隠してしまっている。
『主様、申し訳ないが
クロードは内心に、か細く訴える森の精霊王エンテの声を聴き、慌てて拒絶の意思を持った。
ひと回りも小さくなったエンテが、勢いよくクロードの身体から飛び出てきた。
「主様、優しくといったではないか。危うく掻き消えてしまうところであった」
エンテは抗議の声を上げながらも、少し安堵した様子だった。
精霊と言えば、オルフィリアが以前精霊魔法を使った時に現れた黒い靄のような狼の姿をした精霊を見かけたが、エンテのように人に近い姿をしており、感情や自我があるとなると少し精霊が身近な存在であるように感じることができた。
「主様、あまりにも力を消耗したので休息したい。しばし、精霊石化し、無防備な姿になる故、その間の保護をお願いできぬでしょうか。
エンテの真剣な顔を見ると断ることは出来なかった。
魔力や≪次元回廊≫の使い方を教わって世話になったことであるし、何よりその力をルオネラたちに悪用されるのは、何か良くないことになるような気がした。
「かたじけない。力を取り戻した暁には、主様の眷属として仕えるゆえ、よろしくお頼み申し上げます」
森の精霊王はそう言い残すと、緑色の翡翠に似た石の輪に姿を変えた。
クロードは地面からそれを拾い上げると、ちょうど薬指のサイズにぴったりだったので、無くさないように左手の薬指にはめた。
さて、久しぶりの王都。どうやって中に入ろうか。
王都の出入口から正規の手続きを踏んでもいいが、身分を証明するものもないし、入都税を払おうにも持ち合わせがない。
正門を強行突破するなどはもってのほかだし、身分を保証してくれそうな知人、例えばヘルマンなどが通るのを待つのも現実的ではない。
城壁は、身体能力的には越えられない高さではなかったが、城壁塔には見張りが配置されているのが、≪五感強化≫で高めた視力で見えたので、万が一を考えて、日が完全に沈むのを待ち、暗くなってから侵入を試みることにした。
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