第105話 取扱説明書
「ルオネラに会いたいなら、大魔司教に聞くしかないわ。大魔司教の下には三人の魔将と九人の使徒がいるけど、ルオネラは決してその姿を現わしたりしない。伝えたいことがあるときは大魔司教を通じて自分の言葉を伝えてる。だから、大魔司教以外はルオネラの場所とか交信手段とか何も知らないと思う」
クロードの沈黙をどう解釈したのか、リタは答えを聞くことなく言葉を続けた。
「その大魔司教とかいう男には会えるのか」
「会えると思うわ。それも近いうちにね。魔境域を任せていた三人の魔将のうち、二人も音信不通になったら、さすがに気になるでしょ。ひょっとしたら、もうすぐ近くにいて、何が起こったか探っているかもしれないわ」
リタの話では、大魔司教と九人の使徒は、魔境域の外、世界の各地でルオネラの意思を実現させるべく、それぞれ単独行動をとっているらしい。大魔司教は魔将や使徒と何らかの方法で連絡を取り合い、指示を与えていたのだという。
「リタ、その連絡方法は分からないのか」
「私は≪背教者≫よ。彼は私を信用していない。とても用心深い性格だから、不用意に私の目の前に姿を現すことはなかった。私に何か命じる時はザームエルや他の使徒を通してだったから、この世界に召喚された時と背中の呪印を施された時以外彼と直接、口をきいたことは、ほとんど無かったと思うわ」
「もう一人の魔将と同様に向こうがその気になって、現れるのを待つしかないということか」
こちらが完全に受け身の立場である以上、不意の奇襲を受けないように警戒のレベルを上げる必要がある。オイゲン老に後で相談しておこう。
「そう、だからクロード自身もレベルアップしておく必要があると思うの。大魔司教の実力は、おそらく隠蔽系のスキルで阻害されてて、私の≪鑑定≫でも読み取ることができなかったけど、魔将たちが素直に言うこと聞いていたわけだから、魔将たちより上だと思った方がいい」
魔将より上の実力。
リタがレベルアップの必要性を説いたのは二度目だ。
俺の能力値を見た上での忠告なのだから、彼女の目からはこれから対峙するであろう者たちの脅威の方が上であるという判断なのだろう。
それに、突然複数回分の≪恩寵≫が一度に来てしまい、失う記憶の選択ができないパターンは避けたいので、狙ったレベルアップというのも悪くない案なのかもしれなかった。
だが、命を奪う行為を伴うという点がどうにも気乗りしない。
ゲームでレベル上げするのとは訳が違うのだ。
「≪異界渡り≫を殺しても、≪
また何やらわからない単語が出てきた。
リタに質問してみると、「うん、良い質問だね。クロード君」となぜか小芝居を入れながら、嬉しそうに説明を始めた。
≪
経験点の管理と魔物の生産、恩寵付与の代行を目的として作られ、今もなお世界のどこかで、その役割を果たし続けている。
経験点というのは、すぐ滅亡の危機に陥り、一向に繁殖できない脆弱な人類を自然な成長とは別のルートで強化するためにルオネラが生み出した苦肉の策で、わかりやすく言えば成長促進剤のような役割を果たすエネルギーのようなものなのだとリタは説明した。
≪
それ故に、この世界の住人ではない≪異界渡り≫は、≪
ちなみにゲームマスターという呼称は、同じ≪異界渡り≫の使徒エゴンという男がつけたあだ名のようなもので、正式には機械神ルオ・アポネ・メーカネース・テオラスというのだそうだ。長くて、発音しにくいため、ゲームマスターという別称が仲間内で使われるようになった。
ルオネラが天地創造してから今日まで数台作られたそうだが、古いものは故障し、放置され、今なお稼働しているのは三台だけなのだという。
なんとも突拍子もない話だ。
スキルだのレベルアップだの、元の世界と比べて、まるでゲームの世界のようだと少し呆れていたが、今度はゲームマスターまでいるらしい。
ルオネラという創世神は、俺が元にいた世界のゲームやアニメを参考にでもしたのだろうか。
この世界は、例えるならヒットしなかったゲームの世界の、さらに出来の悪いレプリカのようだ。
話として一応分かった気もするが、細かい仕様がリタの説明だけではたくさん疑問が残るし、ほとんどが誰かからの伝聞であるようだから、彼女の説明が全部正しいかどうかも確認のしようがない。
この世界における何か取扱説明書のようなものが欲しいと思った。
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