第103話 専属秘書官
ミッドランド連合王国の建国が決まり、宰相となったオイゲン老の差配のもと、全てが加速度的に動き出した。
イシュリーン城の部屋のほとんどは空き部屋になっていたが、クロードが使う四階と居館は除き、三階以下の各部屋には、軍務、農政、土木、地理調査、法務などの政務室や部署が置かれることになり、国家を規律する法律、政府と軍の組織体制、都市計画などの草案作成が行われ始めた。
クロードは自らの執務室に戻り、周辺の地図とオイゲン老から渡された資料を眺めていた。
「この辺りの広大すぎる森の一部を開墾して、農地にすることは可能だろうか。それとこの辺りの土地で栽培可能な作物は何があるかな」
クロードは、専属の秘書官と護衛役を兼務することになったユーリアに尋ねた。
「私たちエルフ族もそうですが、森の恵みを分けてもらい生きるという考え方が根強くあるので、狩猟と採集が生活の基盤になっています。しかし国家を運営するのであれば、国家への奉仕の見返りに所領を与えるなどしなければならず、農地の開墾は必要かつ不可欠でしょう。ちなみに、この魔境域の土地は、とても滋養に富み、植物が生育する速度は他の土地の比ではないと聞きます。どの植物でも問題なく栽培できると思いますが、各種族の需要があると思われる作物となると、このあたりになりますね。」
ユーリアはクロードの傍らに身を寄せ、執務机の上にある植物の種類を記録した書物のページを開いて見せる。
彼女の先端の方にいくほどに白金に輝く髪から、花の香りを閉じ込めた香油のような良い匂いが漂ってくる。肩のあたりにユーリアの体温と柔らかさを感じる。
嬉しいが、ちょっと近すぎるのではないだろうか。
彼女の美貌と大きく開いた褐色の胸元が気になって、話の内容が頭に入ってこない。
「ちょっと! あなた、クロードにべたべたしすぎじゃない? それじゃあ仕事にならないでしょ」
振り向くととリタが部屋に入ってきていて、ユーリアを指さし、すごい剣幕で睨んでいる。
リタの後ろには、闇エルフ族の若い兵士とリーンではない他の給仕が困った顔で立っている。
「お止めしたのですが、強引に」
「うるさいわよ。あんたたちは黙っていなさい」
リタは、背後の二人をきつく睨むとユーリアに詰め寄った。
「あなたねえ、オイゲン老の任命だか何だかわからないけど、後からのこのこやってきて、クロードに色目使うのやめてくれる? 目障りなのよ、おばさん」
「おばさん! あなたこそ子供は仕事の邪魔よ。部屋から出て行きなさい。それにあなたより前に私の方がクロード様と知り合いだったのよ。それに王に向かって、呼び捨てとは不敬でしょう」
「いいのよ。私は、クロードにとって特別な存在なんだから」
「特別? クロード様、特別とはどういう意味ですか。説明してください」
ユーリアが形の良い眉を吊り上げて、こっちを見た。
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