第102話 運命共同体
クロードが提案した「九種族連合国家」の基本的な考え方に異を唱える者はいなかった。やはり、族長がそれぞれの種族を束ねるという現状維持にも似た現実的な案だったことも大きかったのではないだろうか。
この場に全種族の族長あるいはその代理者が揃っていることもあったので、暫定的にではあるが第一回の「九種族族長会議」を行い、「王」の選出とこの体制の問題点及び当面の方針などが話し合われることになった。
議長はオイゲン老が務めることになり、議事録の作成はユーリアと闇エルフ族の侍従が行うこととなった。
「九種族連合国家」というのは暫定的な呼び名で、国名ではない。
というのも、ザームエルが「箱庭」と称して、様々な種族の者を「観察」して楽しむために半ば強引に連れてきていたこともあり、九種族だけではないのだ。
鬼人族等のように魔境域西部から種族の集落を離れ、流れてきた者たちもいる。
今後、参集する種族が増えた場合、「九種族連合国家」の名前では都合が悪いので、正規の国名を決める必要があった。
これについては、オイゲン老から提案があった。
古来、まだ魔境の森の木々が大地を覆っていなかった時代、この辺り一帯は大陸の中央に位置しているという地形的な理由から≪ミッドランド≫あるいは≪中の陸地≫と呼ばれていた。
この≪中の陸地≫にできた国であるから、「ミッドランド連合王国」ではどうだろうかというものだった。
国の名前の付け方としては色々あるのだろうが、どんな名前になっても最初は違和感を感じるだろうし、使っていくうちに聞きなれていくのではないだろうか。
リタからは「爺臭いし、反対」という声が出たが、その他の者からは特に異論は出なかったので、建国時の名前としては「ミッドランド連合王国」でいいだろうということで話がまとまった。
自分としては特にこだわりもないし、皆が良いのであれば反対する理由はなかった。
「王」の選出は、投票制によって行われたが、満場一致でクロードに決まった。
これにより「ミッドランド連合王国」の初代国王クロードが誕生した。
この後、王の任期について話し合われたが、これについては何年毎という感じに区切るのではなく、九族長の誰かが「王の交代」を発議した場合、再び投票を行い、王を決め直すことで決着した。
発議は年に一回までとし、否決された場合は翌年まで発議することは出来ない。
つまり、九族長の中から「王の交代」を発議されなければ、クロードは「王」であり続けなければならないことになるが、クロード自身も人族の族長という立場になったので、自ら発議することも可能だ。
クロードが王となったことが九族長全員の賛成と紅炎竜レーウィスの承認によって、権力の裏付けがなされたため、オイゲン老が引き続き宰相としての立場を追認された。
宰相以下の行政官は各種族の推挙などにより選出し、行政府を組織することになった。
この体制の問題点としては、九種族を律する法律がないことが挙げられ、これについてはオイゲン老を中心とした各種族のその道に明るいと思われる人員からなる委員会を立ち上げ草案を作成の上で、第二回の「九種族族長会議」で吟味し、承認を受けることにした。
この委員会のように、様々な問題は委員会を立ち上げ、その中で話し合われ、「王」であるクロードが上がってきた案を検討し、裁可することになった。
当面の方針としては、国の体制を確固たるものにするため、この会議で決まった内容を自分の種族に持ち帰り、民の末端にいたるまで周知徹底と説明をすることを各族長に義務付けた。その上で、全ての種族の上に「国」という屋根がかかっていることを意識させてほしいとオイゲン老は付け加えた。
これは、まだ生まれたばかりの「ミッドランド連合王国」が、国として成立していくためには、すべての民が種族を越えた運命共同体であることを自覚し、団結できなければ形骸化してしまうという危惧の現れだろう。
各種族が抱える問題点を整理し、第二回までに報告することを最後に確認し合い、さしたる紛糾もなく、第一回の「九種族族長会議」は閉会となった。
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