第四章 異世界建国

第101話 九種族連合

テーオドーアたちと再会できたことは当然嬉しかったが、彼らと共に闇ドワーフ族と闇ホビット族が同行してきてくれたのは非常に都合が良かった。


クロードはこの国のあるべき姿について考え続けていたが、それがようやく具体的な案として形になりつつあった。まだ詳細は詰めていないし、思い付きのレベルと言われてしまえばそれまでだが、方向性が正しいか、全種族の長、あるいはそれに準ずるものを一堂に集め、その意見を聞いてみたいと思っていたのだ。


オイゲン老に相談し、居館に住むそれぞれの種族の長をこの「円卓の間」に集めるとクロードは立上り、皆の顔を順に眺めた。


人族。闇エルフ族。闇ドワーフ族。闇ホビット族。狼頭族。オーク族。夜魔族。猫尾族。竜人族。そしてなぜか紅炎竜レーウィス。


これだけの種族が一堂に会するとさすがに壮観だ。

この魔境と言われる森に住まう種族社会の縮図だ。


「まずこうして集まってくれたことに礼を言いたい。そして、これからどのような国を作ろうと考えているか明かすつもりなので、皆の忌憚ない意見を聞きたい」


皆の視線が自分に集まる。


「まず、俺は皆の王にはならない」


思いがけない言葉であったようで、皆がざわめく。

ヅォンガは立上り、不満そうな顔をした。


「静かに。まずは落ち着いて最後まで聞いてくれ。意見は後から聞く」


クロードの強い意志を込めた言葉に、ひとまず静けさを取り戻し、皆は聞く姿勢を取り戻した。


「俺はまず、家畜人間と呼ばれていた人族の族長になる。そしてここに集まってもらった各種族にも一人ずつ代表者をだしてもらう。今現在の族長でもかまわないし、あらたに代表となる人物を選んでもらってもかまわない。九種族の族長が合議制で統治する連合国。これが俺が考えた国の姿だ」


場に静寂が満ちた。

各々、言葉の意味を考えるような難しい顔をして固まってしまった。


「もちろん、国の代表者は一人決めなければならない。たとえば対外的に他の国と関わる場合、代表者は必要だし、国の方針を統一するためにも最終決定者が必要だ。だから、九種族の族長による投票で連合国の代表者、すなわち『王』を決める」


「それはまた、なんとも奇抜な。そのような体制の国は聞いたことがございませんな。九種族間の強固な連合体ということなのでしょうが、それで統率が取れましょうか。まだ少し理解が追いつきませぬ」


オイゲン老は少し困惑した様子で、こちらを見ている。


「どうすればこのあまりにも多様な種族を平和的に束ねていけるか考えてみたが、考え抜いた結果、無理だという答えを俺は出した。俺たちはそれぞれ、身体的にも文化的にもあまりにも違い過ぎる。武力によって、一つの種族の価値観を全種族に無理矢理押し付け従わせるのは何か違うと思ったんだ。自分たちの種族のことは自分たちで決める。その上で、連合国内の他の種族との差異を互いに理解し、連帯する。連合国内の種族が外部の敵に襲われた際は九種族が団結して事に当たる。連合国内で他の種族を侵害する種族があれば、それ以外の全種族が団結して違反した種族を取り締まる。九つの種族が連帯し、お互いの価値観を尊重しながらも、和を乱すことが無いように監視し合う。『王』は最終決定権をもってはいるが、基本的には九種族の族長の合議に基づいて統治する」


「確かに、これだけの種族が混じり合って単一の共同体として暮らすのは無理だろう。正直なところ、我らは互いに仲がいいとは言えない種族もいる。これまで通り、それぞれの種族ごとに共同体を形成し、各種族の長が集まり、話し合って決めた方針を持ち帰って統治した方が現実的であるという気がしないでもない」


竜人族のドゥーラが自らの意見を口にした。


「うむ、存外、悪い案ではない気がしてきたな」


「皆で決めた規則に反しなければ、オーク族のことは、オーク族が決めていいということだな」


「しかし、夜魔族は人口が少ない。他の種族との人数差が大きく対等な関係を維持できるのか」


「平和に暮らせるなら、その辺はお任せするにゃー」


「族長会議による王の選出ということであれば、任期のようなものも決めねばなるまい」


戸惑わせてしまったようだが議論は熱を帯び、関心を持ってもらえたようだ。

自分が提案したのは叩き台で、皆が納得できる形になるのであれば、細かいところはどう変化してもいい。


「クロード王、ちょっといいか。九種族ではなく、十種族ではないか。私は入ってはおらんのか」


紅炎竜レーウィスは、いかにも不満だという様子で立ち上がった。


「いや、俺とレーウィスとはあくまで個人同士の盟約だから、連合国には含まれない。むしろ、盟友の立場で、九種族による代表者の選定結果の承認と代表者への協力をお願いしたい」


「そうか、そういうことであれば、悪い気はしない。九種族が選んだ代表者と対等であるということであるからな」


紅炎竜レーウィスは、機嫌を直したらしく、腕組みし、満足げな表情を浮かべた。





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