第90話 無断侵入

昨日夜更かししたせいか、昼近くまで寝てしまった。

今日はザームエルの部屋の中を調べたり、私物を物色したりした後、城の周辺を見て回る予定だったのだが、すっかり予定が狂ってしまった。


クロードは顔を洗い身支度を整えると、ある考えが浮かんだ。

昨日取得した≪次元回廊≫のスキルを試してみようと思ったのだ。

名前から推測すると、移動系のスキルのようであるし、次元の回廊というくらいだから、元の世界にも帰れるかもしれない。


「次元回廊!」


手のひらを宙に向けて唱えてみる。


何も起きない。


「次・元・回・廊!」


「じ~げ~ん、か~い~ろ~う!」


駄目だ。言い方やポーズを変えてみても何も起きない。

異次元干渉、亜神同化もそうだが、スキルの効果や発動方法が全く分からない。

使えないスキルをいくつ持っていても意味がない。


それとも自動で常時発動するタイプのスキルなのだろうか。


帰れるかもしれないという期待があっただけに、正直がっかりした。


「何やってるの? 」


リタだ。

また無断で部屋に侵入している。

もしかして、今の一連の行動を見られていたのか。

だとすると非常に恥ずかしい。

子供の頃、アニメに感化されて、ヒーローの必殺技をこっそりまねしているところを同級生に見られたことがあったが、その時と同じくらい恥ずかしい。


「いや、ええと、ほら、あれだ。新しいスキルが手に入ったから試してたんだ」


「嘘。スキルなんか増えてないじゃん。というより、種族変わったね。こんなの初めて見た」


スキルが増えてないとはどういうことだろう。

昨日、恩寵の時には確かに≪次元回廊≫と言っていた。スキルレベルを告げられなかったから、EXスキルなのかと思ったけど違うのか。


「多分、EXスキルだと思うんだが、異次元干渉、亜神同化の並びにないか? 」


「EXスキル? そんなの無いよ。その二つのスキル名も無いけど」


どういうことだ。EXスキルは、リタには見えていない。

どのスキルも役立たずで、使い道がないから、無いも同然と言えばそれまでだが。


「そんなことより、種族変わるってどういうこと? 前は、普通の人間になってたから、おかしいなと思ってたけど、私と同じ『魔人』になっているね」


そうだ、これについても全く分からない。

わからないことだらけだ。

少しずつ核心にたどり着いているような気がしていたが、次々と新しい謎が出てきて前途を塞いでくる。


「リタは最初から『魔人』だったのか」


「そうよ。私はガイアじゃなくてリヴュエーだけどね。ルオネラの指示で私をこの世界に召喚した奴の話では、≪魔≫というのは、≪外の世界からきてこの世界の理を壊すもの≫という意味があるらしいわ。勝手に呼び出しておいて失礼よね」


外の世界からきてこの世界の理を壊すもの。


なるほど、それで≪魔≫か。

だが、この世界の人族から魔人とやらに変異した理由と意味は分からない。


「ザームエルの種族は魔蛙、マヌードは魔蟲。まだ会ったことないと思うけどもう一人の魔将は、魔蛇よ」

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