第87話 次元回廊

右手に付着してしまった粘性の体液と動かなくなったマヌードを見ながら、手を放しても大丈夫か考えていると≪恩寵≫が発生した。


もうすっかり≪恩寵≫時の演出のような現象にも慣れ、悠然と構えていたが、今回は少し様子が違った。


膨大な文字列が脳内に降りてくるイメージの後、例の無機質で機械的な女性と思われる声で今までとは違う内容を告げられた。


『十の恩寵により定着率と適応率が100%になりました。ルオ・ノタルの人族の限界を超えたのを確認しました。第2フェーズに進行します』


全身の細胞の一つ一つが発火しているような異様な熱が全身に広がり、体内の魔力塊に制御しがたい何かを感じる。

全身から汗が噴き出て止まらない。

体表を引き裂き、内側から自分とは違う何かが這い出して来るような妄想にも似たイメージが脳内に浮かぶ。

立っていることができなくて両膝をついてしまう。

つい、右手に力が入り、握っていた青いムカデのような生物を握りつぶしてしまった。


体に起きた異変は比較的早く治まり、逆に全身に湧き上がる力を感じる。


名前:クロード

恩寵:9→10

種族:魔人(ガイア)

筋力 - 214→235

敏捷力 - 214→235

耐久力 - 214→235

知覚 - 214→235

魔力 - 214→428

魅力 - 35

≪スキル≫

異世界間不等価変換(ガイア→ルオ・ノタル)、頑健LV5、五感強化LV5、多種族言語理解LV5、危険察知LV5、馬術LV1、投擲LV5、魔力感知LV2、古代言語理解LV5、毒耐性LV5、剣術LV2、魔力操作LV1、精神防御LV5

≪EXスキル≫

異次元干渉、亜神同化



種族が人間から魔人(ガイア)になっている。

これは人間をやめたということになるのだろうか。

≪魔≫の人。

≪魔≫とはなんだ。

魔将もそうだが、≪魔≫が付くと急に違和感が生じるのはなぜだろう。

幼稚な創作物感が滲みでてしまう。

ルオネラが神であるなら、それに仕えているのなら神将ではないのか。

神ではなくて、魔。


≪魔≫に何か意味があるのか。


能力値は魔力が倍になっており、先ほどの魔力塊の異変はこのためであったのか。

魔法が一つも使えないのに魔力が増えても何の意味があるというのか。

暴走時の危険性が増すだけだ。

むしろLV2になっていた剣術のほうが現実的な戦力になりそうだ。

馬術の時もそうだったが、元の世界にいた時に比べて、技能の習得が早いのは高い能力値の恩恵もあるのかもしれない。


『レベルアップを確認しました。異世界間不等価変換を開始します。変換に使用する記憶を60秒以内に選んでください』


①父親の存在

②母親の存在

③1歳時の記憶

④6歳時の記憶



ランダムで選ばれているように見せて、父親と母親の存在の消去が選択肢に並ぶ頻度が不自然なほどに多いと思うのは気のせいだろうか。

もし①と②を失ってしまったら、元の世界に帰りたいという気持ちにも影響が出てしまうことが予想されるし、つじつまを合わせるために大幅な記憶の改ざんが行われる可能性がある。


選ぶなら③か、④だ。


1歳時の記憶は、ほとんど自力では思い出せないが、人格の形成などに影響を与えてそうだ。このあたりの脳への影響が限定的で、失われるのが記憶とは言っても、「思い出」のようなものだけであるなら良いのだが。

6歳時は小学校1年生なので、美化されて、事実とは異なるかもしれないが思い出せる記憶もある。


時間が迫ってきた。

もう決めなくてはならない。


記憶が消えたことの影響は考えてもわからないので、思い切って③にする。

時間切れで勝手に決められるのだけは避けなければならない。


『1歳時の記憶を変換します。「1歳時の記憶」はスキル≪次元回廊≫に変換されました』


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