第83話 大言壮語

「ああ、やっぱ無理かも」


クロードは自らのために用意された自室の寝台の上で寝ころび、呟いた。

この部屋はかつてザームエルが使っていた部屋だったが、家畜人間と呼ばれていた人族の使用人が、オイゲン老の指示でシーツや毛布などの寝具を新しいものに交換してくれたのだという。

寝台はキングサイズよりもさらにひと回り大きくて、無駄にデカい。


「自分には無理だよな」


≪魔境の森≫特有の原形をとどめた野趣あふれる夕食を平らげ、満腹だったので、今日はひとまず床に就こうと思っていたが、これからやらなければならないことを考えるとどうにも眠れない。


国を作るなどと大きな風呂敷を広げて、本当に実現できるのであろうか。

本能寺に散った戦国武将の野望をテーマにした戦略シミュレーションゲームで国を発展させるのとはわけが違う。

俺は少し前まで平和ボケした国に生まれた普通の大学生だ。

ヅォンガたちの熱にあてられて、少しその気になってはいたが、一人になり冷静になると自分がやろうとしていることの難しさに愕然としてしまう。


そして、あれだけのことを皆に言った後で、不安になって煩悶している自分が嫌になる。大言壮語もいいところだ。


「何が無理なの? 」


突然、目の前にリタの顔が現れた。

顔だけではない。自分の上に馬乗りになっている。

昼間の服装とは違い、露出が多く布地部分も半分透けていて、目のやり場に困ってしまう。


先ほど王座の間でもそうだったが、突然姿を現した。

これは彼女の持つスキルなのだろうか。

油断してたことは事実だが、部屋に誰かが入ってきた気配はなかった。

≪危険察知≫には何の反応もなかったので、危険はなさそうだが、別の意味で危険すぎる。


「悩んでいるなら、私が相談にのってあげようか」


顔が近い。

香水か何かだろうか。

彼女の長いツインテールの髪からは、どこか妖艶な香りが漂っている。

不覚にも変な気分になりそうだったので、慌てて身を起こし、彼女の体を優しくどけた。


「どう? 興奮しちゃった? 」


リタは悪戯っぽく笑うと強引に体を寄せてきた。


「そうだ。たくさん聞きたいことがあったんだ。初めて会った時、≪異界渡り≫同士って言ってたけど、あれはどういうことなのかな」


真面目な話でもして、気分を切り替えないと雰囲気に流されておかしなことになってしまいそうだった。

どう見ても未成年だし、絶対にまずい。


「≪異界渡り≫のこと?あれはそのままの意味よ。私も違う世界からトレードされて、この世界に来たの」


トレード?

何のことだ。

取引や交換という意味だと思うが、野球選手のトレードみたいなことを言っているのだろうか。


「神様同士のトレードよ。自分の世界の生物を引き渡して、同価値の別の世界の生物を交換してもらうの。引き渡す生物は自分の信者でなくてはならないけど、これについては抜け穴もあるし、ズルもけっこうできるんだよね。自分の世界の神様から説明聞かなかったの? 」


思い返してみてもそんなやり取りはなかった。

辛うじて記憶にあるのは、謎の男女が言い争う夢を見たぐらいだ。

会話の内容からするとトレードなどという平和な内容ではなかったと思うが、なにかトラブルでもあったのだろうか。


「リタの時は、説明はあったのか」


「あったわよ。拒否権はなかったけどね。スキルとかもらっちゃったし、元の世界もひどい所だったから、まあ別にいっかって感じ」


神様同士が生物を互いにトレードしているというのも、奇想天外な話だが、実際に自分も異なる世界に来ているのだから、事実なのだろう。


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