第81話 優先順位

いつまでもキリがない万歳三唱をやめてもらって、一同にはひとまず解散してもらうことにした。

オイゲン老には、自分ではなくオイゲン老が王になるべきだと説得したが、高齢と跡継ぎとなる存在がいないことを理由に固辞されてしまった。

仕方がないので、当面は「王」として国家としての体制を整え、然るべきタイミングで、もっとふさわしい他の誰かに王位を譲り、この土地からお暇することにする。


元の世界に帰るだけなら、こんな回りくどい方法をとる必要はないのかもしれないが、自分の目的だけ達成して、この魔境の森に住む人々が残る魔将たちに蹂躙される未来に背を向けるのは何とも後味が悪いであろうし、後になって後悔はしたくない。


それに、この広大な世界を自分一人で探し続けても、元の世界に帰る方法が見つかるとも思えなかったのも事実だ。たくさんの味方ができれば、それだけ広範囲の情報を集められるし、協力者だってできるかもしれない。


城の居館にあるオイゲン老の自室で今後のことを二人だけで話し合うことになった。

ヅォンガが話し合いに加わりたがったが、やんわりとなだめ、断った。


オイゲン老には相談しておきたいことが多くあったし、新国家樹立の要はやはり彼しかいないように思われたのだった。


まず最初にオイゲン老に話しておかなければならないことというのはザームエルの生死についてだった。


クロードはガルツヴァ村で起こったことをありのまま説明し、ザームエルが死んでない可能性も無くはないということを告白した。


「やはり、ヅォンガの説明には希望的観測が多分に含まれておりましたな。御心配なく、その可能性については当然、考慮に入れておりましたし、クロード様に謀られたなどと腹を立てたりは致しませぬ。どの道ザームエルは、我も知らぬ何者からか大量の供物を要求されており、そのことを巡って内部的な不満が爆発寸前だったのです。岩山の村に対する供物の要求もその経緯で行われました。各種族に割り当てられた人数と家畜人間を足して、その数、千名。これがザームエルに課せられた要求の人数です」


二人の魔将以外にも、ザームエルに命令を出している奴がいた。

「将」というからには、その上に彼らを束ねる者がいてもおかしくはなかったが、できれば、そのような存在はいないでほしかった。

この件については、≪異界渡り≫と自ら名乗ったリタの方が詳しいかもしれない。

魔将とその上に位置する謎の存在は、千人もの供物を集めて何をするつもりであったのか。


次にクロードはオイゲン老にこの周辺の地理、各種族の集落の位置と人口、生態などについて説明を受けた。


各種族は基本的に城がある、この丘を中心に、その周りを取り囲むようにして集落を形成していた。城に向かう途中見たオーク族の集落のように、それぞれが自分たちにあった形で暮らしているのだという。

実際にどんな感じに暮らしているのかは視察してみる必要があるが、ひとまず何から手を付けるか、全体を考えて優先順位を決めなければならない。

人口的にはやはりオーク族が一番多く、次いでオロフたち狼頭族、それに猫尾族が続く。闇エルフ族は、旧ザームエル勢力の中では人数が少なく、非戦闘員を含めても百名足らずしかいないという。

各種族の力関係、バランスなども配慮しなくてはならず、考えることは山のようにあった。

そして、考えをめぐらすには情報が足りなすぎる。


「オイゲンさん、岩山のテーオドーアたちとはどのような関係にあるのか教えてもらってもかまわないでしょうか」


「クロード様、今後私のことはオイゲンとお呼び下さい。私だけではなく、城の他の者についても同様です。今必要なのは、ザームエルの残像をかき消すほどの絶対的な支配力とカリスマ。ついていく者の心が惑わぬように、王座にいる間はそうしていただかなければ困ります」


ヅォンガにも言われたが、人の上に立つにはこういう芝居がかったことも必要なのだなとクロードは思った。

力や畏怖、畏敬の念による統治。

これが手っ取り早く確実であるのは歴史が証明している。

人は権威や権力といったものに集まる習性があるからだ。

とくに過酷な環境下や外敵に襲われている場合、その傾向は強くなる。

ヅォンガや他の者たちにもこうした心理が働いているのかもしれない。

そうでなければ、よそ者の自分が彼らの王になるなど、ありえないことだと思われたからだ。

彼らは、魔将に対抗しうる可能性がある自分の「力」に従っているに過ぎない。

そこは勘違いすべきではないとクロードは思った。


「わかった。では、オイゲン。もう一度聞く。岩山の里とあなたの間にはどういう関係があるのか、答えてほしい」


オイゲン老は満足げにうなずくと、彼の一族に起きた悲劇とテーオドーアたち岩山の里に暮らす闇エルフ族との関係について語り始めた。


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