第76話 黒髪少女

黒いツインテールの少女は、腕組みし、クロードの全身を上から下まで目で追うと、なにやら難しい顔をした。


「なるほどね。ステータスはバランス良し。でもスキルは見事な脳筋。ザームエルの奴とはどっこいどっこいってところだから、まんざら嘘でもないか」


少女は独り言をつぶやきながら、クロードの目の前までやってくる。


「わたしはリタ。同じ≪異界渡り≫同士、仲良くしましょう」


異界渡り。

今、異界渡りといったのか。


クロードが口を開きかけたその時、控えの間からオイゲン老と呼ばれていた白髪のエルフ族を先頭に次々と入ってきて、横一列に並ぶ。

竜を思わせる角と鱗を持った鎧姿の戦士。二足歩行をする狼の様な上半身裸の獣人。見た目こそ人間に近いが背中に蝙蝠のような羽をつけた女性。猫のような耳としっぽが特徴的な少女。そして最後にオーク族の筆頭戦士ヅォンガ。


「クロード殿と申しましたな。話はこのヅォンガから、あらかた聞きました。しかし、残念ながら我らの総意は一つになりませんでした」


オイゲン老は表情一つ変えず話を続けた。


「まず現時点でザームエルの死が確認できぬこと。あなたの素性と力量、そして目的がわからぬこと。あなたに付き従った場合、我らに何の利があるのか約束されておらぬこと。以上の理由により、我らはあなたに臣従することは出来ない」


オイゲン老の指摘は至極、真っ当なものだ。

ヅォンガがどのように交渉し、何を言っていたかはわからないが、どこの馬の骨とも知れない人間を連れてきて、今日からこの人が主だなどと言われても納得できるはずもない。

オイゲン老もそうだが、この居並ぶ顔ぶれの落ち着きと統制の取れ方を見ると、使いこなせていたかはわからないが、ザームエルは意外と人を得ていたのかもしれない。


「俺はクロード様に従う。あのザームエルの統治より悪くなることは考えれない。違うか」


ヅォンガは地団太を踏み、そして片膝をついた。


「私もクロードさまに付いていこうかな」


リタはくるくると踊るようにして、クロードの傍らに移動し、強引に腕を組んできた。


「リタよ、途中から姿が見えなくなったと思ったら抜け駆けか。お主らしいわ」


狼男のような頭部で、全身毛皮に覆われた男が「古き森の民の言葉」で発言した。


「うっさいよ、オロフ。ここにいる全員で束になってもかなわないよ。クロードさまに臣従しな」


リタの発言に何人かが色めき立つ。


自分の意見を置き去りにして、臣従するしないの議論が進んでいるが、そろそろ自分の立場を鮮明にする必要がありそうだ。


「ちょっと待ってほしい。俺はこの城の支配など考えていない。目的を達したら、この城を去るつもりだ。ここにいる皆さんの平穏を乱す気などない」


クロードは左腕にしがみつくリタを振りほどいて、発言した。

ヅォンガが天を仰ぐような仕草をしたがここは無視しよう。


「目的とは」


オイゲン老は表情を変えず、即座に聞き返してきた。


「まず一つ目は、この城にしばらくとどまりザームエルの正体に関して調べることを許可してほしい。そして二つ目は、テーオドーアさんたちが住んでいる岩山の里の平穏を維持することを約束してほしい。供物だの儀式だの、馬鹿げている。最後に、城内で見かけた家畜人間と呼ばれていた人族を全員解放してほしい。以上だ」


「なるほど。ヅォンガ、お前の説明とクロード殿の話は大きく食い違うようだな」


オイゲン老の厳しい視線がヅォンガに向けられた。

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