第71話 無意識下
ある程度覚悟していたが、やはり≪恩寵≫が発生してしまった。
今回の上昇は、あれだけの数を相手にしたにもかかわらず一つだけだった。
やはりレベルが上昇するほどに上がりにくくなる仕様は、この≪恩寵≫についてもあるような気がする。
名前:クロード
恩寵:8→9
種族:人間
筋力 - 194→214
敏捷力 - 194→214
耐久力 - 194→214
知覚 - 194→214
魔力 - 194→214
魅力 - 35
≪スキル≫
異世界間不等価変換(ガイア→ルオ・ノタル)、頑健LV5、五感強化LV5、多種族言語理解LV5、危険察知LV5、馬術LV1、投擲LV5、魔力感知LV2、古代言語理解LV5、毒耐性LV5、剣術LV1、魔力操作LV1
≪EXスキル≫
異次元干渉、亜神同化
おかしい。確か前回の≪恩寵≫の回数は7だったはずだ。それが8から一つ上がったことになっている。
ザームエルとの戦いの後、気を失っている間に恩寵が発生したのだろうか。
魔力感知のレベルが上がったり、剣術や魔力操作のスキルが増えているのは練習や実践によるものだろうが、見慣れないEXスキルという項目が増えている。
前回の≪恩寵≫のときに得た≪異次元干渉≫の次に見覚えがないスキルがあった。
亜神同化。
異次元干渉というスキルもそうだったが、レベルの表記が無い。
そして名称からは、どのようなスキルで、どうやって使うのか、まるでわからない。
≪恩寵≫の回数と見慣れぬスキル。
やはり、ザームエル戦以後の無意識下で≪恩寵≫が発生したのではないか。
だとすれば、自分の名前を忘れた時のように無自覚に何か記憶を失ってしまった可能性は高い。
忘れたことにさえ気付けない恐怖。
自分は前回、何の記憶を失ったのか。
『レベルアップを確認しました。異世界間不等価変換を開始します』
『変換に使用する記憶を60秒以内に選んでください』
①0歳時の記憶
②父方の祖父の名前
③母親の存在
④お笑い芸人に関する全ての記憶
今確かに60『秒』と言った。
以前は60『ザン』だったはずだ。
この違いが何の意味を持つのか推測することしかできないが、≪古代言語理解≫のスキルと関係しているのではないだろうか。
『ザン』は古代言語ということか。
おっと、のんきに考察している場合じゃない。
早く決めなければ。
というより今回は④しかないと思う。
正直、お笑いは大好きで色々な番組をよく見ていたが、元の世界に戻れなければ、彼らの芸を観賞することは叶わないし、その記憶が消えさったとしても、ほとんど影響がないのではないか。
コンパとかで、お笑い好き同士でちょっと盛り上がるくらいのマイナーな芸人も知っているが、マニアというほどではない。
今後の影響として、あるとすればユーモアセンスが下がるとかそういう感じだろうか。
お笑い芸人が関わる記憶の修正と改変がおきる可能性もある。
ただ、他の記憶の重要度を考えると申し訳ないけど④を選ぶしかない。
そして今回、ある法則性に気が付いた。
肉親や親族に関する記憶の場合、まず『名前』の消去が選択に上がる。その後に『存在』である。つまり、『名前』が消えてなければ、『存在』の記憶はエントリーされない可能性が高い。
父方の祖父の名前についても、すでに苗字は思い出せない。
これは父母の名前の記憶を喪失してしまったことが原因だと思われた。
時間が来た。今回は迷わず④だ。
『お笑い芸人に関する全ての記憶を変換します。「お笑い芸人に関する全ての記憶」はスキル≪精神防御LV5≫に変換されました』
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