第50話 経験値
恐ろしいことになってしまった。
クロードは自分の軽率さと考えの浅さを呪いたくなった。
一角巨人を倒してしまったことで≪恩寵≫が発生してしまったのだ。
それも三回分が一度に。
どうやら≪恩寵≫は一回ずつ来ると決まったものではないらしい。
≪恩寵≫がRPGのレベルアップのようなものだと考えると、経験値のようなものが存在しているのかもしれない。そして、その推論が正しいとするならば、あの一角巨人は今までよりも大量の経験知的なものを有していたことになる。
ゲームではレベルが上がるとだんだんに上がりづらくなるのが普通だが、この世界ではどうなのであろうか。そのあたりも含めて、もっと考えておくべきだった。
クロードの脳裏に今までよりも膨大な量の文字列が浮かび上がった。その文字達は中ほどで一度螺旋を描き、再び理路整然と有名な映画のオープニングクロールのように降りてくる。
名前:クロード
恩寵:4→7
種族:人間
筋力 - 133→177
敏捷力 - 133→177
耐久力 - 133→177
知覚 - 133→177
魔力 - 133→177
魅力 - 35
≪スキル≫
異世界間不等価変換(ガイア→ルオ・ノタル)、頑健LV5、五感強化LV5、多種族言語理解LV5、危険察知LV5、馬術LV1、投擲LV5、魔力感知LV1
ここまではいい。
問題は次だ。
『三段階レベルアップを確認しました。異世界間不等価変換を開始します』
『変換に使用する記憶を60ザン以内に三つ選んでください』
①父親の存在
②母親の名前
③妹の名前
④生まれ育った故郷の町に関する記憶
一瞬、頭の中が真っ白になってしまった。
そう来たか。
楽観的過ぎた。三回に分けて質問が来るか、選択肢も三倍になるのだろうと予想していたのだ。
選択肢の数が増えてないのに、その中から三つ選べという。
どうしても消したくない記憶を一つ選べと置き換えることもできる。
レベルが四つ以上、一気に上がった場合はどうなるのだろうか。
選択肢の数は増えるのか、それとも問答無用で消去されてしまうのか。
しかも選択肢を選ぶ時間は増えていない。
急がなければ。
この中から一つ残すとすれば、「父親の存在」だろうか。
家族の誰かが家族として感じられなくなるのは嫌だ。
できれば残したい。
たとえ名前がわからない父であったとしても。
「生まれ育った故郷の町に関する記憶」を失った場合、元の世界に戻れたとしてもケースによっては家族や自分の身元を探すのに苦労することになりそうだ。
生まれ育った故郷の町だけに限定して消去するのであれば、まだ一人暮らしをしている現住所や父母の実家などの記憶が消えていない今の状態であれば、被害は少ないと思われた。
結局、「父親の存在」を残し、残りの三つの消去を選択することにした。
これで自分の名前だけでなく家族全員の名前の記憶を失うことになったわけだ。
『選択された三つの記憶を変換します』
『「母親の名前」はスキル≪古代言語理解LV5≫に変換されました』
『「妹の名前」はスキル≪毒耐性LV5≫に変換されました』
『「生まれ育った故郷の町に関する記憶」はスキル≪異次元干渉≫に変換されました』
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