第48話 遭遇戦
クロードの眠りを覚ましたのは、オルフィリアの優しい口づけではなく、バル・タザルのデコピンだった。
「こりゃ、いつまで寝ておるか。その様子では何やら不謹慎な夢を見ておったな。魔力の感知もできとらんようだし、まことにけしからん」
バル・タザルはすっかり回復したらしく、顔色は良かった。
辺りを見渡すとエルマーは旅の再開の準備をしており、オルフィリアは今のやり取りの騒がしさで起きたようだ。
一向は軽く朝食を済ませると、再び北の森に向かって進みだした。
何もなければ、明日の昼頃には北の森の端に着くはずだった。
今日も荷車は、最初エルマーが引き、へばったらクロードに交代することにした。
そうしてしばらく旧街道の整備されていない道を行くと、クロードに耳にいくつかのただ事ならぬ音が聞こえてきた。
馬蹄が大地を叩く音。怒号。けだもののような咆哮。悲鳴。
音の数から察するに、十騎ほどはいるだろうか。
≪危険察知≫には何も引っかかってこないところをみると、まだこちらには気づいていないようだ。
「導師」
「うむ、儂も今気付いた。小さな魔力塊が九つ。それよりわずかに大きい魔力塊が一つ。ここから少し先、街道からは離れた位置だ」
バル・タザルは荷馬車の屋根に腰を下ろし、目を閉じながら言った。
「導師。何わけわかんないこと言ってるんですか。いいから降りてくださいよ」
エルマーは顔中汗まみれで、苦しそうな表情をしている。
バル・タザルはやれやれという顔で、身軽に荷馬車の屋根から飛び降りると、クロードの元にやってきた。
「エルマーと代わってやれ。もたもたしていると巻き込まれてしまうぞ」
バル・タザルの指示で、クロードは荷車の引手を代わった。
エルマーは腰を抑えながら感謝の言葉を述べた。
先ほどまでの倍の速度で進んでいくと、先ほどからの音は大きくなっていき、やがて目視で対象を見れる距離に来た。
旧街道からはずれたかなり先の平地で戦闘が行われている。
「うひゃあ、何だあの怪物は」
エルマーは悲鳴にも似た声をあげた。
この位置からでも、はっきりとわかる巨躯。馬に乗った人間の三倍以上はあるであろうか。筋骨隆々としており、裸身で体には何もつけていない。下半身は毛深く、裸足であるように見えた。その太く丸太のような脚には、いくつか浅い傷がついており青紫色の血が流れていた。頭部には一本角があり、巨大な目玉がひとつ、顔の中央についている。
その巨人の周囲を六人の騎士が取り囲んでおり、地面にはその仲間と思われる人と馬があちこちで横たわっている。
その中でも一番立派な鎧をつけた騎士が「退却、退却」と叫ぶとこちらに向かって走り出した。それに続いて、他の騎士たちも続く。
巨人は敵対者を許すつもりはないようで、雄たけびを上げて騎士たちを追い始めた。
「ほれ見ろ。お前たちがもたもたしているから、巻き込まれそうではないか。あ奴らが喰われている間に先を急ごうと思ったが、上手くいきそうにないわい」
バル・タザルは白く長い顎鬚を撫でながら物騒なことを呟いた。
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