第47話 魔力塊
バル・タザルの体を支え、焚き火の近くに敷いた毛皮の敷物の上に、腰を下ろさせる。オルフィリアがカップに水を注いで、バル・タザルに手渡すと彼は一気にそれをあおった。
クロードが何度も謝罪の言葉を口にすると、バル・タザルは長年、魔道を研鑽してきた者として、魔道修行初日の者に頭を下げられると逆に悲しくなるからやめるようにとたしなめられた。
「このやり方は本来、邪道だ。自分より魔力の小さな者にはやったことがあったが、逆の場合がこれほど危険とは思わなんだ。人生で弟子に殺されかけたのは二度目だが、今回は本当に危なかった」
バル・タザルは青白い顔で、まだ呼吸が整わない様子だ。
バル・タザルがクロードに施した魔力感知の手ほどきは、危険で荒っぽいやり方のようだ。外部から他者の魔力を動かし、その体内の異変を気付かせることで魔力の存在を認知できるようにさせる方法だが、通常は特殊な瞑想法や修行によって長い時間をかけて習得させる。外部から魔力に干渉されると自我が弱い者や魔力が弱すぎる場合には、命を落とすことや精神に異常をきたすこともあるらしい。
「クロードよ、起きている間はもちろんのこと寝てる間も、今感じている魔力の流れを意識し続けろ。それができるようになって初めて魔道の入り口に立ったことになるのだ」
バル・タザルは自分の荷物袋から小瓶を取り出すと一気に飲み干し、横になるとやがて、すやすやと寝息を立て始めた。
その日の夜の見張りは、クロード、オルフィリア、エルマーの順で行うことになった。交代時間については、エルマーが持っていた砂時計で六往復したら交代することに決めた。バル・タザルはひどく消耗しているようであったので、そのまま今夜は起こさないことにした。
オルフィリアたちが先に眠ることになり、クロードは焚き火の灯を絶やさぬようにしながら、周囲の様子を見張っていた。
≪危険察知≫では、今のところ何も感じられていない。
クロードは、先ほどの手ほどきで感じた自分の体の中を絶えず循環しているエネルギーに意識を向ける。その根源となる巨大なエネルギー塊は身体の中央の最深部に圧縮されて鎮座しており、その一部分が静かに血液のように体中を流れ、身体の中央と手足の指先などの末端の間を行き来している。
これが魔力か。
元の世界はおろか、この世界に来てからもまるで認識できていなかったものが体の中に存在するとはとても不思議な感じがした。
バル・タザルの教え通り、見張りをこなしながら、魔力感知の練習をしていると、あっという間に交代の時間が来たようだ。
オルフィリアが自ら起きてきて、代わりにクロードが横になる。
バル・タザルは寝ている間も、魔力の存在を意識しろといっていたが、そんなことは可能なんだろうか。
魔力を意識するほどに意識が覚めてくるので眠れそうにない。
すやすやと寝息を立てているバル・タザルを見ながら、もし本当にそんなことができているのなら、魔道士という存在はとんでもない超人ばかりなのだなと思った。
そのようなことを考えているうちに、眠気がクロードの意識を奪っていきそうになる。
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