第44話 大誤算
パーティー名論争の次の日は、半日準備に充てることとなった。
クロードたちはバル・タザルの指示に従い、食料や野営の道具、依頼を達成するにあたって必要な道具を購入し、準備を進めた。
バル・タザルは、時折意味不明な発言をすることもあったが、その指示は的確で、この手の依頼に慣れているように感じた。
王都の北の森は、王都から徒歩で二日の距離にある。
バル・タザルがどこかから借りてきた屋根付きの荷車に食料などの物資を積み、人力で引いていくことになった。
本当は馬に乗って行きたかったが、魔境付近は魔物が出る上に、森の中を進まなくてはならないので、徒歩の方がいいだろうという判断だった。
クロードとしては馬に乗れるのを期待していたので、少し残念な気持ちになった。
少しずつ上達してきた乗馬の練習をしたかったのだ。
今回の依頼から帰ったら、馬宿に預けてあるオルフィリアの愛馬を借りて、練習させてもらおう。
太陽が真上に指しかかる頃、クロードたちは王都を出発した。
王都の入り口で、都市の出入りのための手続きを取り、通行税を払い、王都からでる理由と帰還予定時期を記した証明書を発行してもらった。こうしておくと、王都から帰る際、面倒な手続きがかなり簡略化されるらしい。
一番最初に荷車を押すことになったのはエルマーだった。
エルマーはひょろりとした体型のわりに体力に自信があるらしく、自ら志願したが、出発して間もなく、代わってほしいと音を上げた。
「若い者が情けないぞ」
バル・タザルはエルマーの尻を杖で突いた。
魔の森までは未整備の旧街道が通っている。
旧街道は森のど真ん中に突き刺さるように走っており、その先は深い森の木々に阻まれて窺い知ることは出来ない。
旧街道は至る所に轍ができており、大きな石がところどころに顔を出していて、荷車の車輪を引き留める。エルマーの体力を奪われたのはそのせいもあるのかもしれない。
クロードは水筒をエルマーに手渡し、荷車の引き手を代わることにした。
なるほど、確かに悪路のせいもあって車輪に抵抗がかかるのを感じる。地面の凹凸に嵌る度に、左右のバランスもとらなければならないため、なかなかにコツがいるようだ。
しかし、苦労するほどの重量ではないと感じた。これならば一昼夜引き続けても別に問題はない感じだ。
軽々と荷車を引くクロードに、エルマーはとても驚嘆して、しつこいほど賛辞の言葉を送ってくる。バル・タザルもクロードの膂力はうれしい誤算だったらしく、賛辞を惜しまなかった。
結局、その日の夕暮れまでクロード一人で荷車に引くことになった。
旧街道沿いに何者かの焚き火の跡を見つけたので、その配置してある石をそのまま使わせてもらうことにした。道すがら、枯れ木などの燃えそうなものを拾いながら来たので、それを焚き火跡に置く。
「どれ、儂に任せろ」
バル・タザルは焚き火跡に置いた枯れ木や小枝に手をかざす。
小さな火種が現れ、それらに燃え移る。
オルフィリアやアルバンたちが焚き火を一から起こしていたのと比べると格段に速い。
「これが、魔法ですか。初めて見ました」
クロードが素直な驚きを口にすると、バル・タザルは一瞬身動きを止めた。
「なんじゃと。今何と言った」
バル・タザルは信じられないという表情でクロードを見る。
「魔法を初めてみたと言ったのか。おぬし、魔道士ではないのか。そんなわけはない。嘘をつくんじゃあない。お主から感じる魔力の大きさ。魔道士、それもかなり高位の魔道士でなければ持ち得ぬ大きさだ」
バル・タザルがひどく狼狽した様子で皺の刻まれた顔を近づけてくる。
どうやらバル・タザルが魔道士だと思っていたのはエルマーではなく、俺のことだったようだ。
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