第43話 猛反対
地図を見ると廃村ガルツヴァは王都の北、魔境と呼ばれる森の入ってすぐの場所にあった。実際の距離にすると森に入って半日はかかるとエルマーは悲鳴を上げた。
「魔境なんて、とんでもない。北の森は危ないから近づくなって言ったのは、バル・タザルさんじゃないですか」
「うるさい。騒ぐな。あと、お前らも儂のことは敬意をもって導師と呼べ。いいか、腕っこきの魔道士二人と精霊魔法が使えるエルフ族を含めた四人なら問題ない。何のために四人で受注するこにしたと思っとる。一人で受注できない依頼をこなすために決まっておろう。一攫千金。安心の老後生活はもう目と鼻の先。うぬらの節穴には、見えぬか成功の行く末が」
クロードは、「あれ? おかしいな」と思ったが、言葉を飲み込んだ。
精霊魔法が使えるエルフ族というのはオルフィリアのことだろうが、彼女は精霊魔法を使えるとは一言も言っていない。それともエルフ族イコール精霊魔法ということなのだろうか。
自分が魔法の類を使えないことを考えると、魔道士二人というのは多分、バル・タザルとエルマーのことだろう。
エルマーはどう見ても魔道士に見えなかったが魔法が使えるとすれば、自分だけがまたしても仲間外れで足手まといになる可能性があった。
馬に乗れる乗れないの次はこれかとクロードは内心少し落ち込んだ。
バル・タザルはギルド職員アデーレに廃村ガルツヴァの調査に受注の意志を伝えると勝手に手続きを進めていく。
エルマーとオルフィリアはすっかり呆れ顔だ。
「おい、これに署名してくれ」
バル・タザルは振り返り、受注証明書とパーティ登録書を指さした。
パーティ登録書には、登録名『導師と勇敢なる弟子たち』、リーダー名『バル・タザル』と書いてあった。
これにはオルフィリアも猛反対した。
彼女はパーティ名にはこだわりがあるらしく、これまでの旅路の間にも二人で話し合ってきたのだ。彼女の父親が『深緑の導き手』という高名な冒険者集団を率いていたこともあり、いつか自分もそうなりたいと語っていた。
エルマーも「弟子になった覚えはないです」と憤慨している。
クロードはパーティ名にはこだわりがなかったが、オルフィリアの気持ちを組んで反対の意思を告げた。
まだ受注もしてないのに、今からこれでは先が思いやられる。
バル・タザルの説明によると、パーティ名は、その名声が高まるほど依頼主から特別指名依頼を受ける機会が増えるなどのメリットがあるので登録しておいた方がいいとのことだった。ソロではなく、パーティを指定して依頼をしてくることもあるという。
カウンターの前で、口論するのは他の冒険者やアデーレに迷惑をかけてしまうし、見苦しいことこの上ないので、受注の手続きだけして、酒場で続きをやってもらうことにした。
場所を酒場に移しても、議論は白熱し、一向に決着を見ない。
バル・タザルは、『大賢者と護り手たち』、『大いなる賢人の盾と剣』、『好々爺旅団』などの自己主張が強い名前が良いらしい。
オルフィリアは先のことを考えて、名声を得た後に格式と気品が感じられる名前をよく考えて付けたいようだ。ただ具体例を聞かれても答えられないようで、立場が弱い。
エルマーに至っては、『闇を切り裂く光の戦士たち』、『輝ける勇者の剣』、『正義の一振り』など、クロード的には、もし自分で名乗ることになった場合、おそらく赤面してしまうようなテイストがお好みのようだ。
このままではいつまでたっても決まりそうもない。
クロードは今回の仕事の間に各自考え、依頼が終わったら多数決やくじなどの方法で決めてはどうかと保留を提案した。
一同は、議論に疲れたのかしぶしぶ同意した。
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