第42話 冒険者
昼過ぎに冒険者ギルドに行くと、バル・タザルとエルマーはもうすでに来ていた。
「遅いぞ。年寄りを待たせるとは何事か」
鼠色のローブに、三角帽子、歪にくねり曲がった杖。これぞ魔法使いという出で立ちだ。
「遅いって、今来たばかりじゃないですか。しかも僕より後に来て」
エルマーは軽装ではあるが、全身を革鎧で身を包み、昨日は持っていなかった円形の小さな盾を持ってきていた。
昨夜の話では、バル・タザルがどの依頼を受注するか決めてくれるという話だった。決定するまでの間、依頼書を物色して時間をつぶそうかと考えていたが、掲示板の前につくやいなや、「これだ!決まりだ」とバル・タザルは叫んだ。
ギルド内の他の人達が大声に驚いて一斉にこちらを見る。
バル・タザルは依頼書を取ると、クロード達の眼前に突き付けた。
依頼書には≪調査依頼≫廃村ガルツヴァの調査とあった。
依頼人の名前はダールベルク伯クリストフ。
依頼内容は、廃村ガルツヴァに行き、区画を調査し、建物の配置、路地などの詳細な地図と現在の様子を記した調査報告書を作成し、提出することとある。
基本の報酬は金貨十枚。当時の文化や生活が窺える物品、貴重な宝物の類を発見した際はそのものの価値に応じて高く買い取ってくれるようだ。
廃村ガルツヴァとやらの場所は別紙になっているらしく、詳細は受付に聞かなければならない。
クロードは首をひねった。
廃れた村の地図を作ることに何の意味があるのであろうか。誰も住んでいない村の地図である。訪れる者もいないであろうし、村の今の状況といっても廃村というからには住人がいないわけだから、変化など起こりそうもない。
誰も住まなくなった村に行って、地図を描き、報告書を作るだけで金貨十枚は確かに破格に思える。何か裏があるのではないだろうか。
それに条件のいい仕事であれば、昼過ぎのこの時間に残っているのはおかしい。
「廃村ガルツヴァって、どこにあるんですか。そんな村、僕は聞いたことないなぁ」
エルマーだけでなく、オルフィリアも覚えのない地名だという。
「儂だって知らん。だが、それのどこに問題がある。見知らぬ土地や場所に冒険心が疼かぬか。冒険心を失った冒険者は、もはや冒険者ではない。それを人はならず者というのだ」
バル・タザルはケチをつけるなとばかりに鼻息を荒くして、依頼書を受付に持って行ってしまった。
クロード達は、一瞬顔を見合わせたが、しぶしぶバル・タザルの後に続いた。
「あら、導師。お久しぶりです。今日は依頼の受注ですか。しかも珍しくお仲間を連れて」
受付職員が、バル・タザルに挨拶する。
二十代半ばくらいの女性だった。金色の長い髪を上手にまとめ上げ、後頭部で一つ結びにしている。
「うむ、久しいな。懐もだいぶ寂しくなってきたので、久しぶりにひと稼ぎすることにしたわ。こいつらは儂の弟子どもだ」
バル・タザルは上機嫌な様子で、親指を立て、後方のクロード達を指した。
いつのまにか勝手に弟子にされてしまった。
「まあ、導師のお弟子さん。ではこちらもご挨拶を」
受付の女性は、アデーレといい、冒険者ギルドの正規職員だと礼儀正しく自己紹介してくれた。
導師とギルド職員に呼ばれるくらいなら、このバル・タザルという老人はそれなりの実力者なのだろうか。
お互いの挨拶が済むと、バル・タザルは懐から登録証を出すと依頼書と共に差し出した。鉄でできた登録証には威厳のありそうな熊が彫り込まれており、クロードの格付けの青銅鳥よりは上であることがわかった。
ギルド職員アデーレはそれらを受け取ると奥の部屋から、一枚の地図と依頼の詳細を書いた紙を持ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます