第二章 異世界漂着

第41話 身支度

バル・タザルの強引な提案を、クロード達は彼の機嫌を損なわないように低調にお断りしようとしたが、巧みな話術でうまくかわされてしまった。

のらりくらり話題を変えたり、時には懐が寂しい老人の日銭稼ぎを手伝う気はないのかなどと泣き脅しをかけてきた。

エルマーは最近失敗続きで自信を失っていたらしく、よく考えればいい話かもしれないと考えを改め、賛成に回った。

彼らはすっかり、この四人で仕事をすることを決めてしまったらしく、根気強い説得にクロードとオルフィリアもさすがに折れてしまった。


翌日の昼過ぎに、王都にある冒険者ギルドの依頼板の前で落ち合うことにして、その日は解散することにした。


「黄金の牡鹿亭」に二人が戻ったのはすっかり夜遅くになってしまった。

街の明かりももう疎らで、ほとんどの店が閉まっていた。

宿に戻ると店の主に遅くなるなら次からは一言言っておいてほしいと小言を言われた。

オルフィリアも眠そうにしていたので、それぞれの部屋に行き、もう眠ることにした。



翌朝、クロードは身支度を整えると、一張羅の中古服ではなく、以前仕立て屋に大きめに作り直してもらった方の服を着た。

中古服の方は、肩口のあたりがきつく、だいぶ動きにくくなってきていた。

また少し体の厚みが増し、元の世界にいたころのサイズに近づいて来たようだ。

鏡に映る顔もだいぶ元通りといってもいい。


皮の胸当ても少しサイズが合わなくなってきていたし、曲がったままの長剣も直すか、買い直さなければならない。

護衛依頼の報酬もあることだし、次の依頼前に装備を新調した方がいいかもしれない。


オルフィリアの部屋を訪れると、彼女も身支度は終わっていた。

買い物をしたい旨を伝えると、王都を見て回りたいので同行してくれるという。

買い物前に、これまでにかかった費用を返そうとしたが、彼女はまたしても受け取らなかった。


宿の一階で朝食を取り、ブロフォストの町に繰り出した。

まずは武器防具を取り扱う店だ。王都には鍛冶屋もいるが、製品や中古品を取り扱う武具屋が何件かあるらしい。特にこだわりがなかったので一番近い場所にあった店で、またしても店で一番安い中古の長剣を買った。

長さは使っていたものより若干短かったが、刃こぼれが少なく、厚みがあったので何より頑丈そうだった。重量も少し増えたが気になるレベルではない。


胸当てについては、身体の表面積が増えたことで、どう見ても大人が子供用をつけているような印象を与えるほどだったので、今のサイズにあったものを探した。

少しお洒落したい気分だったので、オルフィリアの意見を参考に、少し意匠が凝った新品の革製胸当てを買うことにした。

中古の長剣が銀貨三枚、胸当てが銀貨三十枚。

曲がってしまった長剣は買い取ってもらえなかったが、胸当ての方は銀貨一枚で買い取ってくれた。


武器も少し良い物を買うべきだというオルフィリアの意見に対して、眉間にしわを寄せ、「真の剣豪は、得物を選ばぬのだ」と答えると、彼女はどこかツボに入ったらしく爆笑した。

父親の旅仲間に同じようなこと言う人族がいたらしい。


王都の最も活気ある出入り口近くの露店では、オルフィリアが一瞬興味を示した銀細工の衣類留めをクロードが買い、プレゼントした。

この衣類留めは月をあしらったブローチのような形をしており、マントやキトンなどの衣類を留めるためのものだそうだ。控え目ではあるが、美しい装飾がなされており、オルフィリアの瞳の様な青い宝石が付いている。

ドワーフ集落の職人の手による品だという。

こんな高価な物は受け取れないとオルフィリアは言ったが、強引に彼女のマントに取り付けた。端にはらせん状のばねが付いており、反対側の受け具に押しはめる。

どうしても地味になりがちな旅装に花を添えるようなような装飾具の上品な美しさが、彼女の持つ本来の可憐さや優美さによく似合っていた。


その後、同じ区画の屋台で甘い焼き菓子を買い、二人で食べながら歩いた。









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