第39話 離脱
昼が近づいて来ると受付前の慌ただしさは落ち着いて、職員にも余裕が出てきたようだ。タイミングを見て、拠点変更の手続きをお願いする。
拠点変更の手続きは各ギルド間の文書でやり取りされ、かかるのは少額の事務手数料だけだ。 冒険者は登録してさえ置けば、基本的にどの都市の冒険者ギルドでも受注ができる。しかし、 拠点の違う冒険者は情報の取得やサポートを受ける際に多少の不便があるし、長期的に活動エリアを変える際はこの手続きをするのが義務付けられていると最初に渡されたギルド規則の薄い冊子に書いてあった。
手数料を払い、拠点変更の手続きが終わると建物内の酒場に行き、オルフィリアと話し合うことにした。ワクラム水という柑橘の果汁を薄く水で割った飲み物を二つ頼み、テーブルに備え付けられている椅子に腰を下ろす。
「クロード、何か気になる依頼はあった?」
オルフィリアの問いかけに何と答えるべきか迷っていた。
自分にはどんな仕事が向いているのか。どんな仕事なら今の状況から前進できるのか。この世界と冒険者の常識がまだまだ自分には欠けていて、判断に苦しむ。
その上、血なまぐさい仕事は嫌だとか、レベルアップはできるだけしたくないみたいなことを言ったらやる気を疑われる気がする。
護衛依頼を受けることにした時もそうだが、オルフィリアに委ねてばかりだ。
本当は自分の身に起きたことを正直に話すべきなのだろう。
しかし、それを話した後、オルフィリアとの関係が変わってしまうのではないかと恐れ、言い出せずにいる。
自分は本当に卑怯者だと思った。
「特にないけど、ノトンと比べて討伐依頼が異様に多かったのが気になったかな」
「そうね。でもこの時間に残っているということは、受注する人は少ないということよね」
「オルフィリアは何かやってみたい依頼あった?」
「やってみたい依頼はいくつかあったけど、問題は私たちにできるのかという話よね。護衛依頼も勢いで受注しちゃったけど、アルバンがいなかったら、ここまで上手くいったか分からないわ」
オルフィリアの言う通りだと思った。依頼を受けてから、できませんでしたというわけにはいかない。自分たちの出来ることできないことを知るためにも難易度の低い依頼から焦らないでこなしていくのが逆に早道な気がした。
「おう、浮かない顔してどうした」
噂をすれば何とやらというが、宿の主人に託した伝言を聞いてか、アルバンがギルドに来てくれたようだ。
アルバンは薄手のシャツに外套を羽織っただけのラフな出で立ちで、まだ微かに酒の匂いを漂わせている。酒場の給仕に水を頼むと銅貨を一枚支払った。
事情を話すとアルバンは突然、笑い出した。
「すまねえ。まあ、慎重なのはいいことだが、臆病になりすぎるのは良くねえ。俺がお前たちぐらいの駆け出しの頃なんか、薬草採集なんかやってられるかみたいな感じだったぞ」
アルバンは冒険者ギルドの酒場などで情報収集することを勧め、その上で自分たちの適正にあった仕事を探すべきだと忠告してくれた。ギルド職員と仲良くなり、情報を引き出すのも有効だと教えてくれた。
討伐依頼については、近年、北の森から領内に侵入してくる魔物の被害を防ぐため国王が国軍を動かしていることと関係があるかもしれないという話を聞かせてくれた。
「ここに来たのはお前たちに余計なおせっかいやきに来たわけじゃねえんだ。あの馬鹿高い宿を引き払って、ここ数日のうちに王都からおさらばするから挨拶に来たんだよ」
アルバンは「黄金の牡鹿亭」を出て、半分の宿賃で泊まれる宿屋に移ったらしい。野暮用が片付くまでは王都にいるので困ったことがあったら来るようにと新しい宿の場所を教えてくれた。
最後にノトンの町に来た時には顔出せよと一言残し、ギルドの酒場を去っていった。
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