第37話 忠告

アルバンがまだ三十代の半ばだった頃、とある迷宮の攻略中に発見した財宝の取り分をめぐって揉めたことがあった。パーティのリーダーは年功序列による配分を強く押し通そうとしたが、アルバンは等分にすべきだという主張を曲げなかった。

険悪な雰囲気のまま、迷宮の出口に向かうその途中で、アルバンは仲間からの裏切りに遭い瀕死の重傷を負った。

そのアルバンの命を救ってくれたのが、同じ迷宮の探索にやってきた『深緑の導き手』の一行だった。

『深緑の導き手』はエルフ族二人、人族三人からなるパーティで、人族の神官の手当てによりアルバンの命は助かったが体中の傷跡は残ってしまった。

頬の傷はその時の名残なのだという。

傷が癒えてからしばらくの間、斥候と迷宮内の罠などに対する見識をかわれ『深緑の導き手』を手伝うことになった。そのままパーティの一員とならなかったのは、自らの志の低さが原因だったとアルバンは自嘲した。

オルフィリアの父オディロンは「世界の成り立ちを解き明かす」というのが口癖で、仲間たちもその志を理解していたがアルバンは違った。

どこに拠点を置くわけではなく、年中旅をして、迷宮や古代遺跡の調査に明け暮れる。その過酷な暮らしに耐えられなかったのだという。


「だが、オディロンさんが命の恩人で、今の俺があるのも彼らのおかげだ。その後も色々あって、何人かのエルフ族と知り合った。皆、どこか堅物で何考えてるかわからないところもあったが、人族よりよっぽど信用できた。おっと、これ以上は時間がいくらあっても足りねえから、この辺でやめとくけどよ」


しゃべりすぎて喉が渇いたのか、アルバンはグラスに口をつけ、一呼吸置いた。


「オディロンさんの消息は知らないが、知っているかもしれないという女なら知っている」


「本当ですか」


「王都の北、かつて魔境と呼ばれた場所のどこかに庵を結び、その女は住んでいる。オディロンさんは魔法のようなものを使ってその女と連絡を取り合っていた。話によればオディロンさんに様々な知識を与えてくれた師のような方なのだと。その女の名は、たしか、古代エルフ族のエルヴィーラ」


「古代エルフ族。ありえないわ。おとぎ話とかに出てくる伝説上の存在よ。言い伝えではもう千年以上も前に滅びたと聞いて育ったわ」


オルフィリアは動揺し、席から立ちあがりそうになる。


「すまないが俺が知っているのはここまでだ。そして、最後に一つだけ忠告してやる。オディロンさんに会いたいのであれば、方々で聞き込みのような真似はやめることだ。信頼するに足る人物以外にこの話はするな。連絡が途絶えたというのであれば、何か事情がある。親父さんが心配だという気持ちはわかるが、もっと慎重になることだ。この稼業は用心深くなけりゃ長生きできねえ」


アルバンは麦酒を飲み干すと、蒸留酒を追加で注文した。


アルバンは先ほどから酒以外口にしていないし、オルフィリアはもともと少食なうえに会話が白熱して食事どころではないようだ。

このままではせっかくの料理が残飯になってしまう。


食べ物を粗末にしてはいけない。


出された食事が残らないように、クロードはところどころ相槌を打ちながら、一人で食べ続け、二人の会話が終わるころには完食してしまった。

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