第34話 行政
王都の冒険者ギルドはレーム商会があった区画からさらに壁をもう一つ越えた行政区と呼ばれる区域内にあった。
ここには王都が任命した執政官が庁舎を構えており、王政を布く上で欠かせない部署や役場の建物が建てられている。その同じ区域の外れに商業ギルド、手工業ギルド、冒険者ギルドなどの組合の建物があった。
「大きな声では言えませんが、ギルドは諸刃の剣です。私たちレーム商会が所属する商業ギルドなどは、品目によっては価格や品質などに口出しされてやりにくいことこの上なしですが、商売や取引の安全が王権によって保障される。冒険者ギルドも似たようなものですよ」
ギルドは王政の中に組み込まれており、民間の組合という顔のほかに、それに所属する人員の管理と経済活動の統制のための役所的な組織という顔を持ち合わせていた。
そのような理由でギルドが行政区にあるのだとヘルマンは説明してくれた。
王都の冒険者ギルドはノトンの町のギルドとは比べ物にならないほど大きな施設だった。柵で囲われた広い敷地に複数の建物があり、その中央に石造りの歴史を感じさせる二階建ての建物があった。外観は小さな砦のように見えるほど厳つく、強固に見えた。
中に入ると建物の広さの割に利用している人の数は決して多くはなかった。
夕暮れにはまだかなり早いぐらいの時間帯であったので、空いているのかもしれない。ノトンの町でも午前中と夕方頃は混んでいたがそれ以外の時間は利用者の姿は疎らだったことを思い出した。
冒険者ギルドの受付は、その中央の建物にあり、その中で護衛依頼達成の手続きを行った。大きなカウンターにいる向こう側にいる三人の受付は皆、少し暇そうにみえた。右端にいる女性職員に話しかけ、依頼書を渡す。
職員の指示に従い、依頼主であるレーム商会から報酬を受け取った旨の受領証と依頼達成を証明する文書にそれぞれ署名する。
冒険者になって初めての依頼はなんとか無事終えることができた。
一人だけ馬にも乗れず、この世界のことなど何もわからない状態で、依頼を成功できたのはオルフィリアとアルバン、そして寛容な依頼主のおかげだと思った。
「さあ、堅苦しい手続きも終わりましたし、食事にしましょう。昼、軽めだったでしょう。良い店知ってるんですよ」
手続きを終えたヘルマンが振り返り、手を叩く。
「待ってました。ここしばらく一滴も飲んでないんだ。今日は酒樽で溺れるほど酒を飲むぞ」
アルバンも笑顔で応じる。待ちきれない様子でクロードとオルフィリアの背を押して、出口の方に促してきた。
もう少しゆっくりギルド内を見て歩きたかったが、アルバンとヘルマンの二人の勢いと空腹には勝てなかったので、断念した。
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