第33話 報酬
レーム商会はクローデン王国でも五本の指に入る大きな商会であった。
その歴史は古く、王都ブロフォストを拠点に各地の物産を集め、王侯貴族を中心とした富裕層向けの商いで財を成した。
それに加え現在は、農産物などの食料品や衣類、家具などの生活必需品の販売のほかに、武具製造販売、高利貸し、両替商、宿や酒場などの営業にまで手を広げている。
レーム商会の建物はこの区画のメイン通りに建っており、クロード達はその建物の裏にある敷地に案内された。敷地内にはいくつも倉庫が立っており、荷馬車が三輌停まっても余裕ある広さがあった。倉庫の周りでは荷を積んだり、移動させたりする作業を行う者や何か紙に書きつける仕事をしている者たちが忙しそうにしていた。
「若旦那、お帰りなさい」
ヘルマンに気付いた奉公人たちは口々に帰還をねぎらう言葉や挨拶をかけてきた。
ヘルマンはその一人一人に挨拶を返すと荷馬車の積み荷について、あれこれ指示を出していく。
積み荷の引継ぎが終わると、ようやくクロード達はレーム商会の建物内にある一室に通された。使用人らしき女性が香りのいい茶とちょっとした食べ物を持ってきてくれて、ヘルマンはそれを食べるように勧めてくれた。
もう昼食の時間はとうに過ぎてしまい食べ損ねた感があったのでありがたかった。
この世界に来てからとにかく腹が減る。
「いや、皆さん。長い道中、本当にありがとうございました。おかげで各地の代理商から買い付けた貴重な積み荷と命を失わずに済みましたよ」
ヘルマンは屈託のない笑顔で全員と順に握手した。
護衛の依頼はこれで完了となり、この先は報酬の話となる。
当初は銀貨六十枚という話であったが、野盗五人の護送などの追加の仕事に対する対価と賞金の分け前を加えて銀貨二百十枚支払ってくれた。
区切りのいい二百ではなく、二百十枚というところにも三人で分けやすいようにというヘルマンの気遣いを感じた。
「随分と気前がいいな。こっちが恐縮してしまうぜ」
そういいながら、アルバンは嬉しそうに銀貨を革袋に詰め込む。
この世界の銀貨は、親指の爪より少し大きいくらいだが一人七十枚の取り分なので、かなりかさ張る。ゲームの世界では何万ゴールドとか途方もない金額を持ち歩いているが、この世界では無理だなと思った。
もう少し貯めて金貨に換金してもらうか、宝石などの価値のある物品を購入するなどしなければならない。銀行やATMがない世界は不便だ。
クロードはそのようなことを考えながら銀貨の入った革袋を荷袋に押し込んだ。
「では、これより王都の冒険者ギルドに行き、依頼達成の手続きを取りに行きましょう。もし、よろしければその後、皆様と懇親を深めたいと思うのですが、食事などいかがでしょうか。もちろん私のおごりです」
何から何まで、気前の良い依頼主だった。
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