第31話 王都

アルバンの度重なる脅しは効果的だったが、それでも野盗たちの歩みは遅く、ノトンの町から王都に到着するのに七日もかかってしまった。

野盗の見張りや拘束のやり直しに労力を割かなければならず、野営の際も気を抜くことができなかった。


そんな過酷な旅程でも、クロードはアルバンを手伝いながら、縄を使った拘束のやり方やほどけない結び方などを教わるなど、充実した時間を過ごしていた。アルバンは嫌がりもせず、時々冗談を言いながら、実演してくれた。


馬に乗ることもだいぶ慣れてきて、荷馬車の後方での役割をこなすうえでは支障をきたすことは無くなってきた。


「皆さん、王都が見えてきましたよ」


前方の荷馬車から、ヘルマンの朗らかで通りのいい声が聞こえてきた。

クロード達が立っている場所は緩やかにではあるが小高く盛り上がっており、王都の全容を眺めることができた。


一行はしばし足を止め、絶景を眺める。


王都は川を見おろす高台に築かれた城塞を中心に広がっており、その周りを石造りの壁が囲っていた。壁の外側には川があり、王都の出入口には大きな橋が架かっている。壁の中の建造物は密集しており、人口の多さと都市の発展具合を示していた。

高台に築かれた城塞は、優雅さとは程遠く、質実剛健で堅固な印象だった。

都市を囲む壁の内側にも幾重に壁があり、壁と壁の間に小さな町が挟まっているように見えた。

ヘルマンの説明によると、王都はその正式名称をブロフォストといい、クローデン王国最大の都市である。三百年以上の歴史を持つ王都は、その長き年月により少しずつ外側に拡張され、今の形になったのだという。

北にはかつて魔境と呼ばれた土地があり、東には神聖ロサリア教国、南にはアヴァロニア帝国といった力のある国に囲まれている。蛮族の侵攻に苦しめられた時代もあり、都市の周りに壁を築くことで王都の民を守ってきた。

それゆえブロフォストは別名「壁の都」と呼ばれているそうだ。


夜の森とノトンの町、そしてこの街道だけが自分の知るこの世界の姿だったが、その外側には見知らぬ国、見知らぬ歴史が存在している。

現状を把握することと元の世界に帰る方法にばかりに一生懸命になっていたので、自分が今いる国や文化に関心がいかなかった。

少し落ち着いたら、この世界について勉強してみるのも大事なことかもしれない。


レーム商会一行は橋を渡り、王都の出入口に向かった。

出入口は高い石壁の中央に作られた巨大な門である。武装した門番が数人配置されており、物々しい雰囲気であった。

ヘルマンは道中で襲撃されたことを門番に告げると、詰め所に案内され、そこで野盗五人を引き渡した。手土産の蒸留酒を手渡すのも忘れない。

いつもすまんなと相好を崩している門番の姿を見ると、ヘルマンは普段からこのようなことをしているのだろう。


手配書を調べてもらうと野盗たちにはそれぞれ賞金が掛けられていたことがわかった。街道を旅する者だけでなく付近の村々まで被害に遭っており、五人分の賞金を合わせると金貨二枚になった。頭目は取り調べの上、死罪。残る四人は戦争奴隷にされるのではないかというのがヘルマンの見立てだった。

ヘルマンが野盗を殺さず連行してきたのは、賞金のこともあったが、頭目が仲間や隠れ家の情報を吐き出してくれれば、街道の安全性が高まると考えてのことだった。

各地の物産を仕入れて売ることを生業とする商人にとって街道の治安を脅かす野盗の存在は許しがたいものなのだ。


クローデン王国では、野盗や罪人などを、生死問わずの賞金首にすることで、軍兵を損なうことなく治安を高める施策を取っていた。当然、対象が死んでいても賞金は受け取れるが、生きたまま引き渡すとより高い金額が支払われるのだ。

取り調べを行うことで盗賊の根城や隠れ家を特定し、根こそぎ対処できるうえに、これらの罪人は戦争奴隷として、城壁の修理などの労役、荷役、戦時には歩兵として活用される。


腕に自信さえあれば、賞金首を捕まえることでも生計を立てていける。

大抵の村や町は、若者たちによる自警団を結成しており、彼らに引き渡すことでも幾ばくかの報酬が出るそうだ。


野盗の引き渡しの手続きを終えるとレーム商会一行は王都ブロフォストに足を踏む入れた。




 

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