第30話 惨状

野盗たちが待ち伏せをする予定だった場所まで来てみると休息場で何度か見かけた商人の荷馬車の残骸や複数の遺体が散乱していた。

荷馬車の片輪は深い穴に嵌っており、大きく傾いていた。

積み荷はすっかり無くなっており、運び出された後だった。


生き残っている者がいないか探してみたが、皆すでに事切れていていた。

背中に傷がある者もおり、逃げる者にも容赦がなかったことが伺える。


アルバンは込み上げてくる感情を抑えきれなかったようで、野盗の頭目の頬を殴った。頭目は吹き飛び、地面に伏した。他の仲間も縄に引っ張られてよろめいた。


アルバンは王都への到着が遅れるので、野盗全員切って捨てるべきだと主張したが、ヘルマンがなだめ、事なきを得た。

ヘルマンには何か考えがあるらしく、野盗全員を生かした状態であることにこだわっていた。ちなみに追加の報酬も支払う気なので期待してほしいと付け加えることを忘れなかった。


アルバンもようやく納得したのか、早くこの場を離れ、次の休息場に急ぐよう皆に促した。

アルバンの推察によると、野盗の一味は、まだ他にも数人おり、戦利品の配送のための人員が存在する可能性が高いとのことだった。

のんびり構えていると鉢合わせになることも考えられる。

危険はそれだけではない。

野盗の犠牲者のように、この世に未練や後悔を残したままの死体は、彷徨える死体の怪物になることが多いというのだ。さらに血の匂いは狼などの野生の獣だけでなく、魔の者を引き寄せる。夜、このような場所に長居することは非常に危険なのだ。

たしかに辺りはすっかり暗くなってきた。

松明に火をともし、レーム商会一行は次の休息場に急ぐことにした。

クロードは、哀れな犠牲者たちを埋葬してやりたい気持ちに駆られたが、アルバンの忠告を聞き入れ、レーム商会一行に続いた。


道中、「初恋の女性に関する全ての記憶」で失った人物が誰だったのか考えていた。

小学校高学年の時の担任先生や近所の女性ではなかったようだ。

初恋をしない人もいるようだから、記憶の被害という観点からは、影響は最小にできたのではないだろうか。


休息場に着くころには真夜中になってしまった。

休息場には自分たち以外の旅人はおらず、静かだった。

全員で手分けして野営の準備をし、食事を取る。

先ほどの惨状を見た後だったからか、皆、普段より口数が少ない。

色々あったことで精神的な疲労もたまっているのかもしれない。

見張りの順番を決め、食べ終わったものから休息をとることにした。

野盗の見張りもしなければならないので、余計に神経を使う。

まずアルバンが見張りをし、オルフィリア、クロードの順に交代する。


アルバンは野盗の拘束の状態を確認し、さらにきつく縛り付ける。


「逃げようとしたり、変な真似したらどうなるか、よく考えろ。俺は他の連中と違って、お前らを生かしておくのは反対なんだ」


アルバンの凄みのきいた脅しに野盗たちは生唾を飲み込んだ。





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