第29話 初恋

アルバンの縄の使い方を興味深く眺めていると、クロードの脳裏に再びあの文字列が浮かび上がった。この世界でいうところの≪恩寵≫と呼ばれるあの現象だ。

どうやらレベルアップしたらしい。


名前:クロード

恩寵:4

種族:人間

筋力 - 133

敏捷力 - 133

耐久力 - 133

知覚 - 133

魔力 - 133

魅力 - 21(35)

≪スキル≫

異世界間不等価変換(ガイア→ルオ・ノタル)、頑健LV5、五感強化LV5、多種族言語理解LV5、危険察知LV5、馬術LV1


空欄になっていた名前が≪クロード≫になっている。

元の名前が何だったのか、もう思い出すことは出来ないが、オルフィリアがつけてくれたこの名前に少しずつ親しみを感じるようになってきた。

それと能力値が全体的に上がったようだ。比率的には一割ほどの上昇だったが、この数字の上昇がどの程度の効果を持っているのか想像がつきにくい。

魅力が少し上がっていたが、相変わらず他の能力と比べるとかなり低い。

ガリガリに痩せている状態から少しずつ肉付きが戻ってきたことによる影響かもしれない。少し前まで、やつれてガイコツ寸前みたいな状態だったが、元の世界にいたときの顔に戻りつつある。

馬術レベル1というのは、ここ数日の乗馬経験によるものだろうか。努力が形になっているみたいで少し嬉しい。


≪恩寵≫の効果なのか、全身に力が漲り、頭の中がクリアになるような心地よさを感じる。


ゴルツと戦った時は、≪恩寵≫が発生しなかったので、命を奪わなければ、経験値的なものが得られない仕様なのかと思っていたがそうではないようだ。命を奪わなくてもレベルが上がることが確認できたのはよかった。


問題はこの後だ。


『レベルアップを確認しました。異世界間不等価変換を開始します』


前回と同じ無機質な女性の声が頭の中に響く。まるで録音されているかのように同じ文言だ。


『変換に使用する記憶を60ザン以内に選んでください』


①父親の存在

②初恋の女性に関する全ての記憶

③0歳時の記憶

④18歳時の記憶


恐ろしい4択を提示してきた。

①を選べば、名前だけでなく父親の存在を忘れてしまう。

これでは無事に元の世界に戻ることができたとしても、家族の中に知らない他人がいるという認識になってしまう。父親の悲しむ顔が浮かぶ。何より家族の誰かを完全に忘れてしまうなんて嫌だ。


②は、これが誰のことを差しているのか曖昧だ。初恋って、どこからが初恋なんだ。小学校の時にほのかにあこがれていた先生、会う度にドキドキしていた近所に住む年上の女性、あるいは中学で初めて告白してフラれた同級生か。どれが初恋だったんだろう。


こういう記憶も対象になるのかと一瞬たじろいでしまった。


③は、0歳の時の記憶はすでに覚えてない気がするので、これが一番良さげだ。

しかし、0歳といえば根源的な何かに影響していそうで怖い気もする。


④は、高校三年生のあたりだから、きっと一番楽しかった辺りだ。受験勉強は大変だったけど、部活で完全燃焼した思い出や希望大学が決まった思い出を失いたくない。


そろそろ60秒。決めなければならない。

決めなければ勝手にランダムで選ばれ、記憶が消される。

父の存在が消されることだけは避けたい。


心の中で②を選択する。


さらば俺の初恋。


『初恋の女性に関する全ての記憶を変換します。「初恋の女性に関する全ての記憶」はスキル≪投擲LV5≫に変換されました』

  

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