第25話 休息

街道には一定の距離ごとに休息場がある。

休息場には井戸が掘られており、馬車馬などに水をやることができる。

ヘルマンの話では、百年ほど前にロタール1世という治世に優れた名君がいて、街道の整備行った際に作られたのだそうだ。おかげで旅人は休息場から次の休息場を目指して旅をするので比較的安全に都市間を移動できるようになったのだという。休息場の周りは、ちょっとした広場になっており、荷馬車を並べて止め、馬たちに休息と水を与えることができる。場所によっては食べ物を煮炊きをする竈や小屋が備えられてあるところもあるという。

レーム商会一行も適当な場所に荷馬車を止め、ヘルマンが支給してくれた昼食をとることにした。

クロードもオルフィリアと共に日陰で食事を取ることにした。

支給されたのはパン、干し肉、水、そして果実の干したものだった。

パンは食堂で出されているものと同じような感じで、素朴で固い。干し肉は塩辛く、香辛料の味が強めで口の中の水分を奪う。干した果実は、食べたことがある果物でいえば、イチジクに似ていて果肉の中にプチプチとした種がたくさん入っていた。

これらは決してまずくはなかったが、これが当分続くと思うとコンビニが恋しくなる。調理パンや弁当、飲み物も種類が多く選びたい放題だった。

この世界に来るまでは、コンビニで提供される食べ物を少々飽きたと思っていたが、それがとんでもない贅沢であったことに気付かされる。


「よう、調子はどうだ。馬にはだいぶ慣れたか」


食事を食べ終えたあたりで、アルバンが声をかけてきた。

アルバンの話では、馬に初めて乗ると尻が痛くなったり、体中の筋肉が疲労を感じるのが普通であるとのこと。アルバンも子供の頃、初めて馬に乗り、尻の痛みに懲りて馬に乗るのが嫌になったことがあるらしい。その痛みに音を上げないだけでも大したものだと笑った。


≪頑健≫のスキルの影響もあるのだろうか。そのような痛みはないし、筋肉の疲労もなかった。馬の息遣い、筋肉と関節の微妙な動き、蹄が大地を蹴るリズムが鋭敏に感じとれるので、馬の動きに合わせて騎乗できているのかもしれない。


アルバンはその他にも馬に接する際の注意点や馬の性質、手入れの仕方まで簡潔にわかりやすく教えてくれた。アルバンから得た知識は、授業料を払わなければと思うほどで、報酬から支払いたい旨を伝えたが断られた。


「気にするな。俺が好きでやっていることだ。見どころがある奴に物を教えるのはなかなかに楽しいもんだぜ」


アルバンはそう言い残すと自分の馬の元に行ってしまった。

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