第24話 馬術

アルバンの馬の扱いは見事なものだった。

鬣と手綱を掴み、左足で鐙に立ってから、右足を上げ回して鞍に跨がる動きは滑らかで、馬は少しの抵抗も見せなかった。

それから足で軽く合図をするとアルバンの思うがままに歩き始めた。


「よし、いい子だ」


アルバンは満足げに馬の首を軽く叩く。


クロードはオルフィリアに手取り足取り教わりながら、ぎこちない動きながらも騎乗することができた。馬の背に乗ってみると思ったよりも高い。馬上から見る景色に心が躍る。


「どうだ、楽しいだろ」


アルバンが馬に乗ったまま、クロードの横に馬を並べた。

発進、停止、簡単な手綱動作、そして少し速く歩みを進めたいときのやり方や心得を教えてくれた。言葉は少ないが、要点がしっかりしているのでわかりやすかった。


「なかなか筋がいいぞ。あとは実践だ。ここから先は馬とそこのお嬢ちゃんに教えてもらうんだな」


アルバンは先頭の荷馬車に近づくと、ヘルマンに出発できる旨を伝えた。

一行はノトンの町の出入口に向かい、通行許可の手続きをすると街道に出た。

はじめてノトンの町に来た時、親切にしてくれた門番がいないか探したが非番だったのか見つけることはできなかった。一言礼を言いたかったが仕方ない。

アルバンの馬が先頭を行き、三輌の荷馬車が続く、その最後尾をクロードとオルフィリアが付いていくこととなった。

オルフィリアはクロードの馬の手綱を引きながら、並行し、荷馬車から離されないようにしてくれた。


荷馬車は積み荷を傷つけぬように常歩の速度で進むため、最後尾の配置は乗馬の練習にはちょうど良かった。

アルバンは時折、かなり先まで危険がないか確認し、斥候の役目も果たしていた。

何から何まで全ておんぶにだっこで申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

ゴルツとの一件で自信過剰になっていたのかもしれない。

周りに一目置かれている冒険者を退けたことで、自分も冒険者としてやれるような気がしていた。

腕っぷしだけで食べていけるほど、この世界は甘くないようだ。馬に乗ることもできず、野営の知識だってない。他にもまだ自分が気付いてないだけで未熟さを痛感させられることがきっとこの先たくさんあるはずだ。


オルフィリアはともかく、アルバンは馬にすら乗れない自分を呆れ、失望しているかもしれない。

クロードは、足手まといになっていると自覚していた。

しかし、それを忘れさせてくれるほど、馬に乗ることはとても楽しかった。

前後に揺れるリズムを感じながら、無心になって、バランスをとる。

骨格や筋肉の動きを感じながら、馬と一つになろうとする。

骨盤の動きがどうやら肝のようだ。

馬に乗っていると雑念が消え、元気が湧いてくる。


時々、オルフィリアから猫背を注意され、正しい姿勢をとるように注意されたが太陽が真上に上るころには、ただ歩かせるだけなら一人でできるようになっていた。


「皆さん、ここいらで休息を取りましょう」


ヘルマンの明るく伸びやかな声が聞こえてきて、荷馬車は歩みを止めた。









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