第23話 商人
オルフィリアと話し合った結果、アルバンを加え三人で依頼を受注することにした。
報酬は三等分になるので減ってしまうが、初仕事にベテランが加わるとなれば仕事の成功率は上がる。
問題はこのアルバンという男が信用できるかだが、受付の女性の評価も高いようであるし、常に警戒心を解かなければ大丈夫だろうと考えた。
翌日、冒険者ギルドで依頼主と会うことになり、ギルド内のテーブルで待っていると、アルバンが現れた。
アルバンは昨日のだらしない様子と打って変わり、使い込まれてはいるが、手入れの行き届いた皮鎧に身を包み、熟練の冒険者を感じさせる装いになっていた。
少し大きめの荷袋、弓、矢の入った筒を持ち、腰のホルダーには大きめのダガーナイフを差していた。
目付きは相変わらず鋭く、他者を値踏みするような狡猾さを感じさせはするものの、それがかえって頼もしくさえ思えた。
昨日と全く別人のようだ。
クロードとオルフィリアは顔を見合わせ、驚きの表情を浮かべた。
「数日の間、よろしく頼むぜ。お二人さん」
アルバンは短く挨拶を済ませると二人から少し離れた壁際の椅子に座った。
暫く待っていると一人の青年が三人の元へやってきた。
「やあやあ、皆さん、道中はよろしくお願いしますよ。私の名前はヘルマン・レーム。五日前後の旅路ですが、楽しく行きましょう」
依頼主のヘルマンは、どことなく親しみを覚えるような人懐っこい笑顔で挨拶した。
年はクロードより少し年上くらいで、二十代半ばといったところであろうか。
簡素ではあるが、品が良い服装をしており、清潔感がある。
ギルド職員立会いの下、契約書を取り交わし、さっそく外の荷馬車へ向かう。
歩きながら、ヘルマンは三人のために馬を用意することを提案してきた。
オルフィリアは馬宿に預けている自分の馬があるのでと辞退した。
アルバンは、快く申し出を受けた。
問題はクロードである。
中学の修学旅行で乗馬体験はあるが、スタッフに引かれて牧場内をゆっくり移動したのが一度あるだけだった。
一人で馬など乗ったことはない。
馬に乗れないという事実をどう告げるべきか。
オルフィリアは馬宿に向かったので、アルバンと二人、ヘルマンの後ろをついて歩く。
考えあぐねていると荷馬車のところに着いてしまった。
二頭立てで四つ車輪のついた荷馬車が三輌。
荷馬車には様々な商品が積み込まれており、ヘルマンの商売の手広さが窺えた。
荷馬車のそばには御者たちが立っており、雑談をしている。
ヘルマンは二人分の馬を借りに行くと告げ、どこかへ行ってしまった。
アルバンは昨日の印象と異なり、とても無口だった。
無駄口をたたくことなく、荷馬車の周りを歩き、何かを確認しているようだった。
しゃがみ込み車輪を見ていたかと思うと、積み荷を覗き見たりしている。
記憶喪失で馬に乗れなくなったということにでもしようと考えているとオルフィリアが愛馬を連れて戻ってきた。
オルフィリアは軽やかに馬から降りるとクロードの傍に立った。
馬の背には宿に置いてきた荷物も括り付けられていた。
しばらく後にヘルマンも鞍のついた馬を二頭連れて来た。
こうしてみると馬といっても色々あるのだなと思った。
馬車を引く馬は、クロードが知っている元の世界の馬より一回りも体格が良く、毛深かった。ヘルマンの連れてきた馬やオルフィリアの愛馬も競走馬と比べるとどことなくがっしりしていて足も太く逞しい。
「おい、どっちの馬にする? 好きな方を選んでいいぜ」
アルバンの問いかけに答えを窮する。
馬に乗れないのだから、良い馬の選び方などわからない。
なんとなく顔を見て優しそうな顔立ちに思えた方の馬を指さす。
「クロード、馬には乗れるの?」
何かを察したようなオルフィリアの問いかけにクロードは肩を落とし、首を振る。
「大丈夫ですよ。荷馬車を連れての旅はとてもゆっくりです。これを機に練習なさるといい。筋が良ければすぐに乗れるようになりますよ」
ヘルマンは一向にかまわないといった感じで、クロードの肩を軽く叩いて励ました。
依頼主の立場では馬にも乗れない素人がメンバーにいることは良くないことに決まっている。それを微塵も感じさせることなく接してくるあたりがヘルマンの性格によるものか、商人特有のしたたかさによるものか。どちらにせよ、馬に乗れないことを言いあぐねていたクロードにとっては助かった気がした。
「おい、お前が選んだ馬は臆病そうだ。こっちに乗れ」
アルバンはクロードが選ばなかった方の馬を指さした。
そして自らは、臆病そうだと評価した馬の元に歩み寄っていった。
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