第22話 護衛

翌日の夕方、護衛依頼があるか確認するため冒険者ギルドを訪れると二人の登録証が出来上がっていた。登録証は薄い金属板に美しい鳥の彫刻がなされていて、想像よりも凝った出来栄えだった。余白には名前と性別、特技などが彫り込まれている。

正直、この程度の情報量では成り済ますのも簡単そうで、身分証明書としての役割は果たしそうにない。町の出入口の門番も人相書きでチェックする程度だったので、この辺りは相当に緩いのかもしれない。

罪を犯した人間が名前を変えてよその土地に逃げたなら、捕まえるのは困難だろうし、そうなれば悪事に手を染める者も少なくないのかもしれない。

街道での旅に護衛が必要なのも納得である。


肝心の護衛依頼だが二件あったが王都に向かうという条件に合致するのは一件だけだった。


依頼主はレーム商会。王都までの旅路を、依頼主と荷馬車三輌を護衛し、王都まで送り届ければ、銀貨六十枚というものだった。希望募集人数は三名程度で、報酬は護衛を受けた人数で等分と書いてある。王都までの食料と水は支給と書いてあるのも好条件だ。オルフィリアの話では王都まで四、五日ということなので、二人で分け合ったとしても日当で銀貨六枚くらいの計算になる。


「悪くないわ。これにしましょう」


オルフィリアは、依頼書を壁からはがし、受付に持っていく。

受付の女性の説明によると、護衛の仕事は基本後払いで、到着した先のギルド立会いの下、支払われるとのこと。つまり、報酬の受け取りにノトンに戻る手間がない。

依頼主はノトンのギルドに依頼料を納め、到着先の王都のギルドに手続き料を払い依頼達成の手続きを取る。そこの職員の立会いの下、冒険者に報酬を払うというわけだ。


「ただ、この依頼主の希望募集人数は三人ですので、お二人での受注となると依頼主の了承を得ることになりますがよろしいですか」


オルフィリアと顔を見合わす。

確かに依頼書には三人程度希望とある。

三人程度というのは、二人や四人も含まれると思っていたが、三人が望ましいが一人ぐらいなら増員しても良いみたいなニュアンスだったのかもしれない。

実際二人しかいないわけだから断られてもしょうがない。

断られたら違う依頼がでるのを待とう。


「ここに一人、参加希望者がいるぜ」


声がする方を見ると壁際に男が寄りかかりこちらを見ている。

暗い灰色の髪色に、頬の刀傷、こちらを窺うような目付き。

年齢は四十代後半というところか。くたびれた衣服に、履き古され変色した革靴。

酔っているのか手に持った麦酒を飲みながら、近寄ってくる。

まだ日が沈む前だというのに、だいぶ酒臭い。

この様子では昼間から飲んでいたのだろうか。


「護衛依頼やったことないんだろう、最近噂の新人君。おっと、気を悪くするなよ。将来有望な若者たちを人生の大先輩が引率してやろうって言ってるんだ。三人いなけりゃ話がうまくいかないわけだし、報酬は等分。悪い話じゃねえと思うんだよな」


確かに三人そろっていれば依頼主の希望に沿うわけで、こちらとすれば悪い話ではない。ただし、この男が信用のおける人物であればの話だ。あのゴルツの一件があったばかりなので、冒険者に対する印象があまり良くない。


「横から口を出すわけではありませんが、悪い話ではないかと。こちらのアルバンさんは信用できる方だと思いますよ。口は悪いですけど、腕は確かです。ノトンを拠点にしている冒険者の中ではベテランですし、受注した依頼も確実にこなされているように記憶しています。御一考されてみてはいかがですか」


受付の女性は、こちらの顔色を窺うように小さな声で言った。

彼女はこの男を知っているようだ。


「俺の名はアルバン。ノトン界隈を拠点に冒険者をやってる。得意なのは見張りや斥候。ちょっとした罠の解除なんかも得意にしている。戦闘は得意じゃないが足を引っ張るような真似はしたことがねえ。自分でいうのもなんだが、こういう護衛依頼では役に立つ。加えてくれよ」


アルバンと名乗った男は不敵に笑った。

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